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政策研究大学院大学教授 角南 篤

近年、宇宙開発を巡り我が国を取り巻く世界の動向は大きく変わり始めています。そうした中で、先日、安倍総理の指示の下、宇宙開発利用政策の再検討が始まりました。今日は、大きく変化する宇宙開発を巡る世界の動向が、わが国の宇宙開発利用にどのような影響があるのか考えてみたいと思います。

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先ず、この図が示すように、世界各国がこれまで打ち上げた衛星の数を例に見ても、米国、ロシア、欧州に加え、最近では中国やインドといった新興国が、宇宙開発に積極的に乗り出しており、世界的にも大きな存在感を示しているのがわかると思います。とりわけアジアにおいて、中国、そしてインドも、独自の宇宙開発技術の確立を目指して、有人宇宙計画から惑星探査まで長期的で包括的な開発計画を着実に実行しています。またASEAN諸国なども、防災や安全保障の理由から自前の人工衛星の保有を目指す動きが出ています。

 それでは、注目すべきいくつかの国の宇宙開発利用の取り組みを紹介したいと思います。

 まずアメリカですが、2010年6月にオバマ大統領が発表した国家宇宙政策をもとに、米国のリーダーシップを再び活性化し、産業基盤の強化と同時に国際協力を推し進め、宇宙ゴミの問題、つまり持続的な宇宙開発利用のための環境の維持を目指したSSA(宇宙状況認識)などに重点的に力を入れています。最近の話題としては、若田さんが船長を務めた国際宇宙ステーションの運用を2016年までとしていた当初の計画を今年初めには2024年まで延長することを打ち出しました。それを受けて、わが国をはじめ参加国では、運用継続の在り方について検討を始めたところです。また、地球周回低軌道への輸送活動は民間に任せ、一方でNASAを探査、科学研究、技術開発に特化させるという方針は、宇宙開発利用に民間企業を積極的に活用する新たな形態として注目されています。SpaceX社やGoogleなどベンチャー企業や他業種からの新規参入が話題になったのも記憶に新しいところです。

欧州は、宇宙開発を国際的な責任を担うための能力の戦略的な実証の場とし、成長と雇用確保のため、競争力の高い宇宙産業の創出や安全保障への対応などを掲げています。欧州版GPSであるガリレオ、グローバルな環境・安全保障監視システム・コペルニクスの促進、ISSの最大限の活用などを通して革新的な技術開発や人材育成を進めています。

そしてロシアですが、スペースシャトルが退役した後、現在、ソユーズ宇宙船が国際宇宙ステーションへの唯一の有人輸送手段となっていて、国際協同の重要な役割を担っています。しかし、そうしたなかで発生したウクライナ問題が、今後、ロシアの協力や宇宙開発利用の戦略などにどのように影響するか世界が注視しているところです。
 
次に中国です。毛沢東時代に掲げた「両弾一星」のスローガンに象徴されるよう、宇宙開発利用を重要な大国の条件のひとつと考え、これまで一貫した姿勢で取り組んできています。その結果、例えば有人宇宙活動では、2011年に打ち上げた宇宙実験室「天宮1号」に翌2012年には、宇宙船「神舟9号」がドッキングに成功し、話題を集めました。今後も、中国独自の宇宙ステーションの建設に向けた計画を着実に進めていくものと思われます。また、月探査においても、昨年嫦娥3号が世界三番目となる月面無人着陸に成功しました。そして、近年中にも月サンプルリターンを目指したミッションを実行するものと思われます。
こうした中国の宇宙活動を打ち上げデータで見ると次のようになります。

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各国のロケットの打ち上げ実績や成功率から見ても、如何に中国が大きな存在感を示しているか一目瞭然です。そして、中国は今後、宇宙開発利用の能力をさらに伸ばして、国家全体のイノベーション能力の構築や中国企業の技術力の向上、そして宇宙産業における商業活動の強化につなげていきたいと考えています。

次にインド、およびASEANについても触れたいと思います。インドは、昨年に火星無人探査機の打ち上げに成功し、さらに有人宇宙船の開発も進めているなど精力的に宇宙開発利用を推進しています。宇宙開発の予算も年々増加しており、インド宇宙研究機関が中心となり、例えば、ペイロードで10t規模の打ち上げ能力を持つ輸送技術の開発を目指すなど、ロケットや衛星を製造しています。また月探査も2016年ごろに月着陸機を伴うチャンドラヤーン2号を打上げる予定で、今後もインドの宇宙開発には目が離せません。インド工科大学をはじめ、多くの大学や研究機関のレベルの高さや若くて豊富な人材を考えると、インドが今後中国に続き宇宙開発利用においても大国の地位に成長することは、容易に想像することができるのではないでしょうか。

最後にASEANですが、これまでは通信衛星の運用や他国の気象・地球観測衛星のデータの受信・利用が中心でしたが、近年、タイのように独自の衛星を調達する国や、インドネシア、マレーシア、ベトナム、そしてシンガポールのように衛星の開発を進めている国が増えており、宇宙活動が全般的に活発化しています。とりわけ、ベトナムは日本のODAで宇宙センターを建設し、地球観測衛星
2機を調達するなど、日本との関係を深めながら宇宙開発利用を本格化させようとしています。 そして2020年には、ベトナム初の国産衛星の打上げを目指します。
  
 糸川博士のペンシルロケットに幕を開けた日本の宇宙への挑戦は、これまで宇宙先進国である米国に追いつくため、技術の習得や人材育成に努力を重ねてきました。そして、こんにち、日本の宇宙開発の能力と実績は、「はやぶさ」、「HTV(コウノトリ)」や「きぼう」、そして若田さんをはじめとする多くの日本人宇宙飛行士の活躍など世界から信頼される地位を獲得するに至りました。そして、維持可能な宇宙開発利用のための国際ルール作りや宇宙ゴミの解決など国際協力が不可欠な問題が山積しているなかで、日本への期待も高まっています。
昨今の国際情勢を鑑み、インドやASEANとの関係強化を進めるなか、来月、わが国で開催されるアジア・太平洋地域宇宙機関会議も、アジアにおける日本の宇宙開発利用やその意義を国内外に向けて発信する宇宙外交の場として良い機会になります。宇宙先進国の仲間入りをした日本が、厳しい財政事情を抱えながらもより広い観点で国益を考え、宇宙開発利用の社会的利益、産業振興、安全保障に加えて、人類が抱えるより本質的課題に取り組むという長期的な目標を掲げ、世界の中での日本の立ち位置を高めることこそが求められているのではないかと思います。また、それが、アジア諸国を中心に新たに台頭してくる新興国との関係構築においても、いかに大きな意義を持つか真に理解することになると考えます。

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