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名古屋大学大学院 地震火山研究センター教授 山岡耕春
 
 去る9月27日午前11時52分に御嶽山が突然噴火し、噴石などにより多くの人命が失われました。犠牲になった方々に深く哀悼の意を表するとともに、ご遺族に心よりお見舞いを申し上げます。私の所属する名古屋大学では、御嶽山の観測研究を長年実施してきており、このような大災害となったことが私には無念でなりません。
 ところで、このような惨事となったのは、言うまでもなく噴火警戒レベルが1のままであったためです。噴火警戒レベルが2にされていれば火口から1km以内の立ち入りが制限され人的被害を大幅に減らすことができました。

 このことを理解する為に、まず噴火警戒レベルについてお話しいたします。
 
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噴火警戒レベルとは、火山の活動の程度に応じて周辺住民や登山・入山者の行動を制限したり勧告したりするためのものです。火山ごとに地元自治体と協議の上、事前にレベルを上げ下げする基準と対応する防災行動を決めておきます。御嶽山では、レベル1が平常、レベル2が火口から1km以内の立ち入り制限,レベル3は最大4kmの範囲の立ち入り制限,レベル4は麓の居住者の避難準備、レベル5は麓の居住者にも避難を勧告するというものです。

 このような噴火警戒レベルは、基準設定を事前に行っておくことで、レベルの上げ下げに関する一般への説明性は高まります。御嶽山の場合には、観測網が比較的整備された中で発生した
2007年の小噴火の際の観測データが参考にされています。今回の噴火に先立つ地震活動が
2007年の活動レベルを超えていれば、当然噴火警戒レベルを2に上げていたはずです。しかし、実際には2007年の活動よりは低調でした。噴火の2週間前から発生していた地震や低周波地震の活動は、2007年の噴火前と比べても弱いものでした。また2007年の噴火では事前に地殻変動を伴いましたが、今回の噴火ではまったく観測されませんでした。

 つまり今回は、噴火警戒レベルを上げる基準を満たしていなかったのです。
レベルの上げ下げの基準の設定に問題があったとも言えますが、そもそも過去1回の噴火だけの観測データに基づく科学的知見が、噴火警戒レベルという防災側からの要求に答えられるだけの実力を持っていなかったことを示しているのです。
この欠点を補うため、気象庁は、火山活動に関する解説情報も合わせて発表し、火口からの噴火の可能性も指摘していました。この情報が重く受けとめられ、登山者に周知されていれば、登山を取りやめる人が増え、被害が軽減された可能性はあります。しかし、この情報は十分に伝えられることはありませんでした。受け取った側は、解説よりもレベルの数値を見て安心してしまいました。

 では、今後同じような悲劇を招かないためにどうしたらよいのでしょう。御嶽山について考えて見たいと思います。
今回の噴火の規模は、2007年の噴火よりも前兆の地震活動が弱かったにもかかわらず、火山灰などの噴出物は5桁も大きな噴火でした。前兆となる地震活動や地殻変動からは、噴火の規模をまったく予測できないことを示しています。噴火の規模を示す前兆は、噴火の約10分前から発生した連続的な火山性微動とそれに続いて観測された地殻変動だけでした。これは地下から水蒸気が割れ目を作って上昇し始めたことを示したシグナルでした。しかし10分という短い時間であったため登山者が危険を知らされることはありませんでした。

 このように考えると、レベル1であっても、今後も同様な噴火が起きてもおかしくありません。たとえレベルを1から2へ引き上げる基準を下げたとしても、その基準が適切かどうかは次の噴火が起きなければ分かりません。そうであれば、平常時においても、火口から一定距離への立ち入りを制限しておかなければ今後の人的被害を防ぐことは不可能です。その場合、火口に近い登山道や山小屋の廃止も覚悟する必要があります。
 一方で、火山への登山は登山者自身が安全を判断するという考えもあります。
そうであれば、登山者に対して登山前に十分な情報提供がなされ、登山者も火山や地学に関する十分な知識を持って自己の安全を確保する必要があります。火山活動の観測状況を登山者に周知し、御嶽という火山に登山することの意味を理解した上で、登山を楽しんでもらうことになります。ヘルメットの携帯や、背中や首を保護するための大きめのザックを用意するなど噴火に対する安全策も伝える必要があります。

 ところで、御嶽山は標高3000メートルという高い山ですが、火山体そのものの規模は比較的小さいものです。地元に住む人の多くは、御嶽火山の噴火が直接影響を及ぼす地域から離れた場所に住んでいます。そのため、麓の住居に危険が及び噴火警戒レベル4や5になることは、他の活動的な火山と比べてかなり低いと思われます。
 つまり、御嶽山の場合、噴火警戒レベルが4や5となる頻度は非常に小さく、また逆に1であっても今回のようにいきなり4km範囲に影響を及ぼす可能性のある噴火になるなど、噴火警戒レベルの有効性は疑問です。むしろ、噴火警戒レベルがあるために、火山の活動に関する感受性の低下や、ある種の思考停止が起き、今回のような災害につながってしまうのではないかと思われます。だとすると、いっそのこと御嶽山では噴火警戒レベルを廃止し、火山の活動状況について公表するとともに丁寧な説明を行うという方針に変更したらよいと思います。

 このように言うと,地元自治体は困るかも知れません。どの様な行動をとったら良いか専門家に判断して欲しいと思われるでしょう。しかし、地元にいない専門家が、地元に特有の事情を理解して、防災行動までを判断することはできません。我が国では活火山の数に対し火山の専門家は少ないため、地域の事情に詳しい火山の研究者を求めることは困難です。国の組織も効率化が求められています。気象庁も全国の測候所を廃止し、御嶽山の活動の監視は遠く離れた東京で行っています。

 火山の防災は、地元の自治体が主体となって進める必要があります。県や市町村が、火山の専門家を火山防災を担当する常勤の職員として雇用し、学会などの機会を通じ、気象庁の専門家や火山研究者との顔の見える関係を築くことが必要です。
 自然災害は地域の特性が大きく反映されます。地域の特性を最も良く知るのは地元です。そのため地元が主体となって防災に取り組む必要があります。国や研究者はそれをサポートできますが主体となることはできません。火山防災も同じです。地域のとりくみに国・研究者が支援をして防災力を高めます。噴火警戒レベルは、国の判断が地域の防災対策を自動的に決めることとなり、結果として地域の自主的判断力を削ぎ、防災力の低下を招きます。今回の御嶽山の噴火災害をうけて、噴火警戒レベルのあり方を含めた火山活動情報と防災行動についての見直しが必要と考えています。

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