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弁護士 福井健策
 
皆さん、デジタルアーカイブという言葉をご存じでしょうか。代表例は、ヨーロッパが急ピッチで構築を進める巨大電子図書館「ユーロピアーナ」です。そこでは、過去の膨大な図書・映像・音楽などがデジタル化されて公開され、世界中の人々がネットを通じて自由にアクセスし、作品を楽しめるようになっています。その数、実に3000万点を超えるデジタルコンテンツたちです。少し見てみましょう。
 

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たとえば、シェイクスピアという単語を入力すれば、彼の戯曲や舞台上演の映像など約3万点がヒットします。その多くは、無償で楽しめます。時代順や言語別といった絞り込みもできます。更に多くの作品には、我々が文章を転載したり映像を上映するなど、どの範囲なら自由に利用して良いかの条件も記載されています。つまり作品や資料を我々が再活用できるようにしているのですね。
こうした過去の作品のほとんどは書店など市場ではもう入手できません。それが恒久保存され、世界の人々が容易にアクセスできるのは、素晴らしい文化的体験です。まさに知のオアシスと言えるでしょう。こうした過去の膨大な資料を収集し、デジタル化し、公開する場がデジタルアーカイブです。

今、欧米はこのデジタルアーカイブの構築でしのぎを削っている状況です。
きっかけはネットの巨人グーグルです。彼らが2004年に発表した電子図書館計画でした。後にグーグルブックスと呼ばれるようになるそれは、世界中の古今の書籍1億冊以上をスキャンしてデジタル化し、更にネットで全文検索できるようにして提供しようという、壮大な計画です。一見すると素晴らしいのですが、ヨーロッパでは多くの人がこの計画に危機感を抱きました。
というのも、今、世界中の情報の集積と序列化が、グーグルなどの一握りの巨大ネット企業によって爆発的に進行しているのですね。こうしたネット企業をプラットフォームと言い、その多くがアップル・アマゾンなど米国系企業です。ネット上の情報は日々爆発的に増大を続けています。私達は果てしないデータの海の中から欲しい情報を手に入れようとすれば、キーワード検索などに頼らざるを得ません。
その膨大な検索結果をランキングする基準、これをアルゴリズムと言います。その基準を決めるのはプラットフォームです。そして私達は、検索結果の上位数点や、その他プラットフォームが推薦する候補たちの中から見るべき情報、買うべき商品を決定しています。それが文化・経済での世界のスタンダードを形作っているのが現状でしょうし、その中で英語圏の優位はもはや揺るがない状況です。
これ以上、情報の集積と序列化を域外の一営利企業に委ねていいのか、という危機感がユーロピアーナ構築の根底にはあったのです。デジタルアーカイブは素晴らしい。しかしそれは自らの手で構築しようということでしょう。

日本でも、意欲的なデジタルアーカイブの構築は進んでいます。代表格は国立国会図書館でしょう。
 
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過去の書籍など既に250万点がデジタル化され、50万点ほどがネットで公開されています。大変意欲的な取り組みですが、とはいえ先ほどのユーロピアーナと比べると二けた違う。ほかにも民間有志が支える青空文庫や絶版マンガ図書館などの電子図書館、行政資料などを保存・公開する国立公文書館、NHKも取り組む放送番組や映画フィルムのライブラリー、東日本大震災のアーカイブなど、意欲的な取り組みは数多くあります。
 
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それは、埋もれた膨大な過去の傑作たちに新たな命を与えると共に、日本の対外発信、地域創生、教育・研究・防災・新ビジネス創造など、無限の可能性を秘めた取り組みです。皆さんも、是非アクセスしてみて下さい。日本の情報立国の成否は、こうしたデジタルアーカイブにかかっていると言っても、過言ではありません。

しかし、現実のデジタルアーカイブの現場では、数少ないスタッフ達が苦闘を続けています。彼らが直面するのは、一言でいえばヒト・カネ・著作権の壁です。まずはヒトとカネ、つまり圧倒的な人員と予算の不足があります。国立公文書館のスタッフ数は、これまた米国の公文書館より2ケタも少ない現状です。
更に、最後の著作権の壁とは何でしょうか。こうした情報資産をデジタル化し公開しようとすれば、著作権者などの権利者の許可が必要です。しかし、数百万点もの作品の権利者を探し出して交渉するのは現実にはほとんど不可能です。加えて実は、過去の作品の約半数は探しても探しても、権利者じたいが見つからないのです。見つからなければ許可はとれませんから、作品は死蔵され、忘れ去られるほかありません。その間に埋もれた傑作映画や貴重な写真資料は腐食などが進み、散逸して永久に失われる危機に直面しています。
権利者探しは欧米も直面する大問題で、対策のため立法化の動きも急です。

さて、情報社会の未来を左右するデジタルアーカイブ。まさに少子高齢化を迎える日本のゆくえを決定づける、「知のインフラ」とも言えます。その促進のために我々が取るべき対策を考えてみましょう。

第一に、日本にはそもそもデジタルアーカイブ整備の基本計画というものがありません。そこでまずはオリンピックまでの5年間をめどに最初の中期計画を作り、更にアーカイブ基本法制も整備する。そして、戦略的にアーカイブ構築を進めて行くべきです。
第二に、各地の意欲的なデジタルアーカイブは現在分断されています。これでは、アクセスして求める資料を探すのは大変不便です。そこで各種アーカイブをネットワーク化して、横断検索が可能な統一のゲートウェイを整備します。いわば、ネットワーク化によるナショナル・デジタルアーカイブの整備です。これで国内外からのアクセスが格段に容易になります。
第三に、予算と人員は大幅に拡充すべきことは言うまでもありません。
第四に、各地の多くの文化施設には、資料のデジタル化や国際発信のための字幕化のノウハウや人員はありません。そこで、公設のデジタル化ラボ・字幕化ラボを設立して、ここに持ち込まれた文化資産は無償でデジタル化する。そして、多言語で字幕を付与するサービスを開始してはどうでしょうか。日本文化の対外発信には大きな推進力になるはずです。
最後に、権利処理の難問を解決するために大胆な法整備を進めるべきです。
 
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懐かしい過去の傑作達や貴重な時代資料に誰もが容易に出会え、更には幅広く活用もはかれるデジタルアーカイブ。欧米はその整備にしのぎを削っています。官民をあげて整備に取り組むなら、それは今です。

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