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CeMI 環境・防災研究所副所長 松尾一郎
 
■今年は、この7月末で既に12個の台風が発生しています。
台風8号・11号・12号は、西日本地方に大雨をもたらし様々な被害を発生させました。災害の調査などで自治体の防災担当者からよく聞くことは、「数十年ぶりの大雨で、災害対応が混乱した」「避難の呼びかけに躊躇した」などです。

災害は、地域にとって希なことです。
自治体の防災担当者からすれば、初めての防災対応であり、混乱のなかで終始してしまった、これが正直な感想だと思います。
このことは我が国に、災害教訓を共有する、継承する仕組みがないことが大きな要因と私は思っています。

■アメリカでは、台風に相当するものをハリケーンとよびます。
2012年10月にアメリカ東海岸に上陸したハリケーンサンディは、アメリカ・カナダで132名もの犠牲者を出し、被害総額は約8兆円にも及びました。
 
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私は、このアメリカの高潮被害が、伊勢湾台風以降60年近く都市圏で高潮を経験していない我が国への警鐘になると考え、防災専門家と国土交通省の合同調査団に専門家として参加しました。

この調査で知ったことは、「タイムラインによる、早め早めの防災行動が減災に繋がり命を守った」ことでした。
 
■タイムラインとは、台風が発生してから上陸するまでの数日間を使って、事前に防災行動を行い、被害の防止や発災後の早期復旧を実現するアメリカ発祥の防災計画です。

タイムラインは、住民の命を守るさらに経済被害を最小化することを目的に、「何時」「何を」「誰が」の3つの要素を合い言葉にして、あらかじめ地域の防災機関が集まり、とるべき防災行動や行動時刻、各機関の役割を細部に亘って規定したものです。
 
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■ハリケーンサンディが上陸したニュージャージ州では、前年に作ったばかりのタイムラインで人的被災を軽減できました。
 
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■州知事は、タイムラインに従い上陸36時間前に「避難勧告」を発表しました。
沿岸部のバリヤーアイランド地区では、2m以上もの高潮が内陸を襲い4千世帯が全半壊状態でしたが、早めの避難が功を奏して一人の犠牲者も出さずに済みました。

タイムラインは、2011年に州を襲ったハリケーンアイリーン災害への事後検証制度に基づき新たに考え出されたものです。
アメリカでは、自然災害に関する事後検証制度があります。災害の教訓や課題を事後検証によって改善していく制度です。タイムラインも運用するたびに、検証・改善の過程を得て随時更新していく仕組みも聞くことができました。
このようにタイムラインによる成功例を現地で見聞きし、「これは日本でも使える」と確信したのです。
 
■帰国後 タイムライン試行に向けて幾つかの自治体への声かけを行いました。
三重県紀宝町は、2011年9月の台風12号災害直後から様々な取組みを協働していたこともあって、町長も直ぐにタイムラインの導入に理解を示し、取組みが始まりました。2013年に台風26号による土砂災害で甚大な被害を受けた東京都大島町も導入を決めています。

一方 国土交通省は、大臣が「タイムライン元年」というように国が管理する全国109河川でタイムライン簡易版の試行を進めています。また名古屋駅前地区や首都圏で実証的なタイムライン取組みが始まったところです。

首都圏の荒川下流域では、国の河川事務所や気象台が中心となり、北区・板橋区・足立区や鉄道事業者や電力・通信などのライフラインも参加して、荒川下流域のはん濫に備えたタイムラインの検討会が立ち上がりました。
 
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荒川は、はん濫すると大都市東京が浸水します。また海水面より低いゼロメートル地帯が広範囲にあります。さらに浸水に脆弱な地下鉄・地下街も無数にあります。
人的被災が予想されることから、その成果に期待するところです。
 
■さて取組みが先行している三重県紀宝町タイムラインは、町内外の41もの防災機関によって半年かけて議論を重ね、その防災行動項目は220項目にも上っています。
 
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そのような中で7月上旬に日本を襲った台風8号、8月の台風11号でタイムラインを試行運用しました。そこで分かったことを述べてみたいと思います。
 
1.タイムラインをチェックリスク的に使ったことで漏れがなくなり、さらに早めに防災行動を行ったことで、その後の対策が安心に繋がっています。

2.従来は先が見えず心配なこともあって、過度な防災行動を行うことが多かったようです。しかしタイムライン運用による専門機関との情報共有によって、先が見え、余分な防災行動がなくなり、他の行動や意思決定に集中できたと聞きました。

3.防災無線などを使って、避難を促す可能性や、早めの避難行動を町民によびかけています。役場からの防災情報の提供により、町民からは役場が何をやっているかよくわかり、安心に繋がったとの声もありました。
 
4.土砂災害が懸念される地区の半数の世帯が、避難の呼びかけに応じ早期避難が実現できました。このことが防災担当者も他地区の災害対応に集中でき、かつ避難された町民も安全な場所で過ごすことが出来たと思います。
 
このようにタイムラインの導入効果は、予想以上のものでした。
私は、この取組みの可能性を改めて確信したところです。
 
■この取組みは、まだ始まったばかりです。
タイムラインを普及させるために解決すべき事を述べてみたいと思います。
 
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1.日本の水害の特徴を踏まえたタイムラインの構築を急ぐ。
 
アメリカのタイムラインの行動基準や行動時刻の設定には、多くがハリケーン単独で襲来するため進路予測技術の善し悪しで成否が決まります。

しかし我が国は、水害の要因が台風単独のケースは少なく、多くは先行した前線があり、あるいは遠くに台風がありながら前線を刺激して大雨をもたらすことがあります。また浸水被害は、河川のはん濫によって生じます。

つまりタイムラインの運用には、台風のみならず様々な現象が判断要素となります。我が国固有の水害の特徴を踏まえたタイムラインの運用基準の検討が鍵となるということです。

2.災害リスクなど、専門組織(気象台、河川管理者)と自治体の連携・情報共有を進める。

タイムラインには、災害リスクを明らかにして、減災に向けた防災行動を決める必要があります。自治体には、災害現象に詳しい専門家はいません。災害によるリスク評価は、専門機関と一緒になって検討するものです。
また災害対応では、気象台や河川管理者の持つ防災情報が非常に有用でした。その意味で、「気象の専門機関である気象台」「河川を熟知している河川管理者」と自治体との連携や情報共有は必須です。

3.制度面の後押しは必須
タイムラインは、いま災害に関する法律や制度を補完するものと考えています。しかし自治体や防災機関が広く活用するためには、法律や制度面の新たな後押しが必要と考えています。
 
■最後に 現在進めているタイムラインは、自治体や国の機関が主体となったものです。また取組みも端緒についたばかりです。
今後も運用・検証・改善を重ねながらそれぞれの地域あったタイムラインを地域と共に構築して行きたいと思います。
そのことがきっと日本の水害から国民の命を守る事に繋がること信じて。
 

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