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獨協大学教授 竹田いさみ
 
 日本やアジアと、欧州を結ぶ新たな海上輸送の航路として、北極海を経由するルートが注目されています。日本の大手船会社が2018年から、北極海で世界初の、定期的なエネルギー輸送に参加することが明らかになりました。
北極海は一年を通じて、厚い氷が海面を覆っているため、民間商船による海上輸送は難しいとされてきましたが、地球温暖化で氷が減り、通航が可能になったという背景があります。今日は、北極海航路について、その現状と課題を探りたいと思います。

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北極海航路とは一般的に、東アジアとヨーロッパを結ぶ航路の中でも、ロシア・シベリア沖を通航するルートを示します。これによって太平洋と大西洋が結ばれます。
しかし、同じ北極海でもカナダの沖合を通る「北西航路」もあります。これはヨーロッパを起点にして、大西洋を北西方向に航海して、太平洋に出るため、北西航路と呼ばれます。
 北極海航路が注目される最大の理由は、日本とヨーロッパを結ぶ海上輸送の日数を大幅に短縮することができ、それに伴い燃料代や人件費などの運航コストを、3割から4割も削減することが可能になるからです。
 
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たとえば日本から、オランダのロッテルダム港までの海上輸送を、現行の南回りルート、つまり南シナ海、マラッカ海峡、インド洋、スエズ運河、そして地中海を経由するルートで行った場合、約40日かかります。
ところが海賊やテロ事件などで、スエズ運河を経由できない場合は、南アフリカの喜望峰を経由することになり、その場合はさらに10日間の日数が必要です。この場合は、日数が約50日となります。船会社にとっては運航コストが増えます。
しかし、北極海航路を利用すると、約30日で日本とヨーロッパを結ぶことができるため、製品を納入する納期を短縮でき、運航コストを、かなり減らすことができます。
南回りの航海では、インド洋で海賊に狙われるリスクがありますが、北極海航路では、そのリスクはありません。イラク、シリア、エジプトなど中東・アラブ情勢の緊迫化から、スエズ運河が閉鎖されるリスクを考える必要も生まれ、北極海航路への関心はその意味でも高まっています。
さらに北極海では石油・天然ガス、希少資源などが埋蔵されている可能性が高く、豊富な資源が有望視されていることも、北極海への夢を掻き立てる大きな要因となっています。
じつは北極海航路の開発・検討は、1990年代から行われており、これまでにも単発で北極海を通航した貨物船や調査船はあります。米国とソ連が対立した冷戦時代には、厚い氷に覆われた北極海で、米国とソ連が原子力潜水艦を潜航させ、軍事作戦を展開していました。
このため民間人が立ち入ることは厳しく制限され、軍事的に立ち入り禁止区域の扱いを受けました。しかし冷戦が1990年ころに終わったことで、北極海をめぐる冷たい戦争も幕を閉じ、今度は一気に北極海の利用へと発想が転換しました。
国際的な関心を反映して、1996年には沿岸国の8か国が「北極評議会」を設立し、2年に1回のペースで、閣僚会議を開くようになりました。日本は中国、韓国、インドと共に、2013年にオブザーバー国になりました。
 
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また日本国内では、国土交通省が中心となって「北極海航路に係る官民連携協議会」を、今年の5月に開催しました。複数官庁と民間企業が連携する枠組みで、情報交換の場となっています。
輸送船による試験的な航海も始まり、ちょうど一年前には、ノルウェーから石油化学製品の原料となるナフサを積んだタンカーが、北極海を経由して岡山県の水島コンビナートに到着しています。ナフサ・タンカーとしては初の北極海での通航です。これに続いて、中国の船会社が大連港とロッテルダムを結ぶ商業航路を開設するなど、北極海航路の通航が現実となりました。
 
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4年前の2010年には北極海の商業利用件数はわずか4件でしたが、翌11年には34件へ8倍となり、12年には46件、そして昨年の13年には、前年の5倍に当たる230件台へと急成長しました。
 
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 今回、日本の海運大手が発表した北極海航路は、主にロシアと東アジア、さらにロシアとヨーロッパを結ぶ定期的な航路です。この中には、ロシアと中国を結ぶ、いわゆる三国間貿易と呼ばれる貿易ルートも含まれます。中国は今回、北極海に面したロシア北部のヤマル半島で、2018年から生産が始まるLNGの長期・輸入契約をロシア側と結びました。このように海上輸送する貨物も、液化天然ガス(LNG)に特化しており、コンテナや自動車ではありません。
 伝統的なエネルギー資源の石炭や石油に加えて、現在、天然ガスの需要が急速に増えています。とりわけLNGと呼ばれる天然ガスの需要はうなぎ上りで、原子力発電がストップした日本では、代替エネルギーとして割高なLNGを大量に輸入するようになりました。中国でもエネルギー資源として、LNGを活用する動きが加速しています。
ロシアは米国のシェール・ガス革命を受けて、北極海のLNG生産を急ピッチで進めたいとの方針です。日本は米国産シェール・ガスを2017年から輸入する予定ですから、ロシアとしても北極海航路を成功させて、日本へのLNG輸出を増やしたいはずです。


もちろん課題もあります。ここでは、3つ取り上げたいと思います。
第1の課題は、北極海航路といっても、全ての航路を一年通じて通航できるのではなく、日本や中国とロシアのLNG基地を結ぶ航路は、氷が解ける6~10月の5か月間を予定しています。一方、ロシアとヨーロッパを結ぶ航路は通年の利用が可能です。つまり日本からヨーロッパへ輸送する場合は、通年ではなく、半年間の利用に限られます。このように期間は限定されます。
第2は、ロシアとの協力関係です。ロシアの砕氷船なしに、民間商船が単独で北極海を通航することはできません。必ずロシア政府、原子力船公社などと契約し、原子力砕氷船のチャーター料を含めて、高額の手数料をロシア側に支払うことになります。またロシア人の水先案内人を乗船させることも条件となります。
現在、ロシア政府は補助金を投入して、運航コストを下げる努力をしていると報道されていますが、補助金がなくなればコストは上昇します。ロシアとの情報交換、相互理解が不可欠となります。
  第3の課題として、北極海の沿岸には製造業の拠点都市や消費マーケットがないため、多くのコンテナ船や自動車専用船にとっては、不向きな航路であるという点です。貨物船は通常、複数の港に立ち寄って、なるべく沢山の貨物の荷揚げ作業を行うことで、収益を捻出します。北極海の沿岸都市では、活発な荷揚げが可能な商業都市がないため、通航する貨物船も限られてきます。日本とヨーロッパを結ぶ貨物船でも、南周りの貨物船がすべて北極海航路に変更することは考えられません。船会社としては、さまざまなリスク分散と、企業として収益率の向上という観点から、北極海航路に取り組むことが求められています。
 人類が北極海航路を構想したのは、いまから450年前の16世紀です。長い年月を経て、その人類の夢が、ようやく実現する運びとなりました。

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