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経営コンサルタント 太田光雄
 

7月20日夜、中国・上海のテレビ局が、食品加工会社「上海福喜食品」に潜入して隠し撮りした映像を放映し、この会社のずさんな製品加工の様子が明るみになりました。消費期限を大幅に超えた鶏肉、床に落ちた肉、青く変色した牛肉、素手で作業する従業員・・・、それは、まことに信じられない光景でした。上海市当局はこの工場に対し、操業停止を命じ、関係者が取り調べを受けていると報道されています。日本では、マクドナルドとファミリーマートが、この工場の製品を販売していたことが分かり、両者はその対応に追われました。「上海福喜食品」は、アメリカの大手食肉業者であるOSIグループの独資会社です。
 中国からの輸入食品は、本当に大丈夫なのでしょうか?

振り返ってみれば、中国から日本に輸入された食品で、今までに大きな問題になったのは、これが4回目です。1回目は、2001年から2002年にかけての残留農薬問題、次が、2007年12月から2008年1月にかけて起きた毒餃子事件、3回目が2008年9月から10月にかけて発覚したメラミン混入の牛乳事件、そして、4回目が、今回の事件です。
残留農薬問題は、2002年8月に、輸出する野菜は、専用の農場で、管理された形で栽培する制度を作ったことで、基本的に解決されました。毒餃子事件とメラミン混入牛乳事件を教訓に、「食品安全法」が2009年6月に実施されました。厳しい罰則規定もあるのですが、それにも拘わらず、今回の事件が起きてしまいました。

事件は、なぜ起きたのでしょうか? 
中国は、今やアメリカに次ぐ世界第二位のGDPを誇る国ですが、かつては10%を超えていた経済成長率は、7%台にまで落ちこんでいます。ちょうど日本の1970年代の状況に似ています。輸出産業は振るわず、食品を輸出してきた企業は、採算が合いにくくなってきています。輸出をやめたり、倒産したりする食品企業も少なくないようです。これが、今回の事件が起きた背景としてあります。

そして、この工場は、アメリカの会社の中国子会社ですから、本来なら、アメリカの親会社が中国子会社を統括し、管理できていなければなりません。つまり、親会社の子会社に対するガバナンスが効いていなければなりません。しかし、その形跡は見えません。
日本の企業は、海外に子会社を作ると、先ず本社から日本人駐在員を派遣して、子会社の経営に当たらせるのが普通ですが、欧米企業は、海外に子会社を作ると、現地の人をその会社のトップに据え、業績が良ければ、高額の報酬を支払い、業績が悪ければ解雇するという方法で、経営するのが一般的です。今回の事件は、経済環境が思わしくない中で、無理やり業績を上げるために、期限切れの原料を使ったりしてコストを下げようとした可能性が高いと見ています。

事件の原因を、現地管理者や従業員のモラルが低いせいだとする見方が強いのですが、モラルのせいにしていたのでは、問題は何も解決しません。モラルの高い、低いも含めて、その国のカルチャーであるわけで、それも前提として企業経営ができなければなりません。
信頼が裏切られたという企業トップの発言もありました。ビジネスに個人的な信頼関係は必要ですが、個人ベースの信頼で、会社のリスクがなくなるわけではありません。会社が晒されるリスクは、徹底して排除するのは国際ビジネスの鉄則です。個人ベースの信頼で、会社のリスクを排除しないのであれば、まさに公私混同です。

今回の事件を契機に、中国食品のイメージは、更に悪くなってしまいました。東南アジアから輸入するほうが、安心なのではないかという意見もあるでしょう。
 
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ここに、厚生労働省が公表した『輸入食品監視統計』から作成した一覧表があります。輸入時に、厚生労働省は日本の食品衛生法などに照らして違反があるかどうかを検査しています。検査比率は、10ロット輸入するごとにほぼ1回、つまり10%の貨物を検査しています。全アジアからの輸入食品の違反率は、0.41%ですが、中国からの輸入食品の違反率は0.22%。アジア平均のほぼ半分です。韓国、台湾、ベトナム、タイからのほうが、違反率は格段に高いのです。アメリカに至っては0.81%と、中国の3.7倍も違反率が高いのです。これは、いったいどういうことなのでしょうか?

実は、中国の食品管理は、輸出向けと国内向けの食品とでは、管理する体制も基準も違います。輸出食品は、国家質量監督検疫検験総局(略して“質検総局”と言います)、ここが管轄していますが、国内向けの食品は衛生部の所管です。
質検総局の管理は非常に厳しく、輸出食品の工場は、工場の設計段階から、質検総局が、国際基準の衛生管理の手法に基づいて厳しく指導します。それに対して、国内向け食品を管轄する衛生部の管理は、質検総局よりも遥かに緩くなっています。
このように、中国では、輸出食品のほうが、国内向け食品よりも、格段に高い基準になっているのです。つまり、中国食品は、輸出用と国内用の二重基準になっているのです。このような国は、中国以外にはないでしょう。そのため、国内向けの食品では、発がん性物質を多量に含む再生油、有害な染料で肉を赤く染めた豚肉、成長ホルモンを多量に使った鶏・・・等々、様々な食品事件が起きています。こうした情報が、日本のマスコミで報道されることで、中国食品の安全性への不安を掻き立てる結果になっています。

アメリカからの輸入食品は、日本での水際での検査で違反が発見される率は高いし、他のアジア諸国の違反率も軒並み中国より多いのですが、食品のイメージは、それほど悪くありません。それは、“事件”が起きていないからです。
一方、今回の中国の事件のように、製造工場の工場長自らが指揮して、食品の安全に関わる重大な事件を起こしたのでは、日本の消費者として、安心できませんし、親会社のガバナンスが効いているかどうかを知る術はありません。

それでは、このような“事件”が起きたとしても、中国で安全な食品を製造して輸入する方法はないのでしょうか?
あります。
それは、中国で自社向けの食品を加工製造している間中、輸入側が品質管理を行う要員を工場に派遣して、最初から最後まで立ち会う仕組みを作ることです。  
実は、私が勤めていた会社では、約10年も前にこの方法を採用して、現在も実施しています。効果は抜群です。通常の衛生管理のレベルが更に向上したばかりでなく、今回のような“事件”に対しても、事件の発生を防ぐ効果はもちろんのこと、万が一事件が起きてしまったとしても、それを察知して、問題のある食品が輸出されてくるのを防ぐことができます。
子会社が自社工場であれば、親会社がしっかりと統括、管理していくことで、食の安全は担保できます。製造工場が自社工場でないのであれば、必ず輸入側が、加工工場に品質管理要員を常駐させることです。それができないのであれば、新興国から食品を買い付ける資格はありません。「海外から輸入する商品の品質責任は、海外から買い付ける商社にある」のです。

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