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国立病院機構久里浜医療センター院長 樋口 進
 
女性の飲酒は今でこそ珍しくありません。しかし、一昔前には、女性が飲酒している姿はほとんど見ませんでした。
 
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たとえば、今から60年前の昭和29年に行われた調査では、女性の飲酒率は13%でした。それから約50年後の2003年の調査では63%と、約5倍に増えていました。これに対して、男性の飲酒率はここ30年以上、頭打ちの状態です。

わが国成人に対する私どもの調査結果によると、女性全体の飲酒率は、ここ10年ほどは増減していないようです。しかし、年齢別に調べてみると、若い女性の飲酒率が急速に伸びていることがわかりました。
 
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以前は、男女とも中年が最も飲酒していました。しかし、女性の場合、このパタ-ンが変わってきて、最近では、年齢が若ければ若いほど飲酒するようになってきています。2008年に実施した実態調査では、若年者は男女の飲酒率の差が小さく、20歳から24歳では、ついに、女性が男性を追い抜いてしまったことがわかりました。2013年の実態調査でも、この年代は男女が同じ割合でした。

さて、女性のこのような飲酒の変化はなぜ起きたのでしょうか。最も大きな理由は、女性の社会参加が進んだことだと思います。それに伴い、飲酒する機会が増えるわけです。また、以前に比べて、女性が家に縛られなくなり、金銭的にも豊かになってきました。この変化に、いち早く反応したのが、他ならぬ若年女性なのです。

男性と女性が同じだけ飲酒した場合、女性の方が酔いやすい、つまり、血中アルコール濃度が上がりやすいことがわかっています。理由ですが、まず、女性の方が男性よりアルコールの分解が遅いことです。これは、女性の肝臓や筋肉が男性より小さいためです。また、女性の方が男性より体内の水分が少ないことが知られています。そのため、同じだけ飲んでも、水分が少ない分、女性の血中濃度がより高くなるわけです。

女性は男性よりアルコールの害を受けやすいことも良く知られています。最も有名なのは肝臓障害です。女性は男性に比べて、少ない飲酒量でこの肝臓障害が引き起こされます。これには、女性ホルモンが関係していると考えられています。このほかにも、アルコールによる脳障害の程度も、女性の方が男性よりひどいという研究もあります。さらに、もうひとつ。アルコール依存症になるまでの時間も、女性が男性よりかなり短いことも有名です。実際、私どもの病院に入院している女性患者は男性患者に比べて10歳以上若いです。

さてここで、話を依存症に進めて参りましょう。大量飲酒によって、様々な健康問題や社会問題が一人の人に集積した状態をアルコール依存症と呼びます。確定診断は、世界保健機関が策定した診断ガイドラインであるICD-10により行われます。基準は、6つの項目、すなわち、1) お酒に対する強い渇望、2) 飲酒のコントロール障害、3) 離脱症状、4) 耐性、つまり酒に強くなったという証拠、5) 飲酒中心の生活、6) 明らかに有害な結果が起きているにもにもかかわらず飲酒、からなっています。これらのうち、3項目以上が過去12ヵ月のどこかで同時に存在した、または、繰り返し生じた場合に、アルコール依存症と診断します。
 
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アルコール依存症には、様々な健康問題が合併します。例えば、肝障害、膵炎、糖尿病、脳卒中、がんなどの身体的健康問題や、うつ病や認知機能低下などの精神的問題です。これに加えて、家庭内不和、離婚、暴言・暴力、虐待、経済的困窮、飲酒運転などの家族・社会問題が、ほぼ例外なく伴います。このために、本人のみならず、家族など周囲に多大な悪影響をもたらします。

ところで、アルコール依存症はわが国どの位いるのでしょうか。私どもは、2003年に実施した実態調査から、男性72万人、女性8万人、合計80万人と推計しました。しかし、10年後の昨年の調査では、その数は男性95万人、女性14万人、合わせて109万人と推計されています。この数を見る限り、女性の伸びが著しいことがわかります。
 
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ここからは、女性アルコール依存症の特徴をまとめてみます。男性に比べて次のような特徴がみられます。
 
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まず病気の原因ですが、男性に比べて遺伝の影響が少なく、家族を含めた環境要因により強く影響されるとのことです。生育歴では、性的暴力も含めて、心理的・身体的暴力を受けてきている者が多いと報告されています。

肝臓障害などの身体合併が男性より、出やすいことは先に説明しました。最近の研究から、多量飲酒は乳がんの発生率を高めることも明らかになっています。

一方、女性依存症には、精神疾患が合併する割合の高いことが知られています。
具体的には、うつ病、パニック障害などの不安障害、他の薬物依存などです。
また、摂食障害、特に神経性大食症の合併率が高いのは有名で、我々の研究によると、30歳以下の場合には、実に70%に合併が見られました。飲酒開始から、依存症に発展するまでの期間が男性に比べて、短いことは既に述べました。これらの合併症が、依存症発症を早める要因の一つになっていると思われます。

女性の飲酒量が増えたといっても、飲酒に対する許容度に未だ男女差があります。女性依存症に対するスティグマは男性以上に強く、女性が自分の問題を隠す傾向、これを否認と呼びますが、この傾向の強い理由の一つになっています。女性の場合、問題が家の中で起きることや暴力が少ないことなどから周囲に目立たない傾向があり、発見が遅れがちとなります。

最後に、家族の関わりがより深いことも知られています。飲酒の引き金が、しばしば家族内の葛藤であるばかりでなく、回復の動機が、家族である場合もよく見られます。夫の飲酒問題や暴力も、一般家庭より多いという報告もあります。

治療は、一般的なアルコール依存症の治療に準じて行います。すなわち、心理社会的治療と薬物治療の併用ですが、前者がより重要と考えられています。心理社会的アプローチでは、疾患教育や、依存症に関する誤った考え方を修正することを目的とする認知行動療法が汎用されています。一般的には、これらの治療は集団で行われます。

薬物治療では、飲酒欲求を下げて断酒率を上げる効果のある新しい治療薬が昨年から使用できるようになりました。

女性の治療で留意しなければならないことは次の通りです。まず、合併している精神障害の治療を適切に行うことです。第二に、個別の対応を必要とすることが多いので、集団治療に加えて、個人カウンセリングの併用が欠かせません。第三に、家族への教育やカウンセリングが必要なケースが多いと思われます。最後に、女性専用の自助グループが利用可能となっていますので、参加を勧めたいものです。
 
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治療後の回復率は、男性よりむしろ女性の方がよいという研究が多数見られます。病気の進行が早い分、早めの治療導入が望まれます。

 

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