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愛知淑徳大学准教授 小島祥美

去年末の日本に暮らす外国人の数は約206万人。政府は、外国人労働者の受け入れを拡大しようと検討しています。
このような状況のなか、国は国内に暮らす外国籍の子どもを未だ就学義務の対象外として扱い、基礎的な教育を保障していません。このことは、日本も批准する子どもの権利条約に反し、国際社会が貧困の撲滅のために共通の目標として定めたなかの1つである「普遍的な初等教育の達成」にも矛盾する扱いといえます。このような教育保障の不備を背景に、国内には小中学校に通ってない不就学・つまり学校に通っていない子どもが多く実在すると考えられますが、国はその数さえも把握しておらず、正確な数が未だに不明です。
きょうは、外国人住民が多く暮らす岐阜県可児市で私が行った調査を基に、国内に暮らす外国人の子どもが抱える教育問題について考えていきたいと思います。

2003年4月から2年間、私は自治体やNPO等と協力しながら、可児市内に暮らす小学1年生から中学3年生に相当する全ての外国人住民の家庭を訪問し、就学実態を調査しました。2年間に同じ調査を3度行った結果がこちらの図です。
 
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この調査から、主に2つのことがわかりました。
1つ目は、不就学の子どもが実際に存在したことです。日本で生まれ、日本語を話すことができるにもかかわらず、韓国・朝鮮をはじめ、ブラジルやフィリピンなど様々な国籍の子どもが、日本国籍を持っていないことから不就学の状態に置かれていたことがわかりました。
2つ目は、不就学の子どもは公立学校の中退者が多く、そのなかには就労している子どももいたことです。日本の法律では、15歳以下の子どもを雇用することを禁じています。しかし、2006年に岐阜県労働基準監督署が工場に立ち入り調査を実施した際にも、日本の企業が15歳以下の日系ブラジル人の子どもを働かせていた実態も明るみに出ました。このことからも、不就学の問題は児童労働にもつがっており、国内には学校に行かず、就労している子どもがいることがわかりました。
また、不就学の子どものなかには、保育園などに通うことができない弟や妹の面倒をみるなど家事労働をする子ども、中学校の制服を買うことができないなど経済的な理由で学校へ通えない子ども、出産した子ども、生まれてから一度も学校へ行ったことがないために文字の読み書きができない子どももいました。このように教育の機会を奪われた不就学の子どもが実在する実態を、皆さんはどのように思いますか? 学校に通えない子どもの問題は、途上国で起きている遠い国のことでなく、私たちの暮らすここ日本国内でも起きていることなのです。
 
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この調査で日本の学校に通う子どもと同じくらいの数の子どもが通っていた外国人学校も、厳しい状況に置かれていることがわかりました。日本にはすでに創立100年を超える中華学校をはじめ、インターナショナルスクール、ブラジル学校やインド学校など、百数十校におよぶ外国人学校があります。これらの学校は、歴史も規模も言語も、実にさまざまです。こうした外国人学校の多くは制度的に保障されていないため、それらの学校に通う子どもは困難な状況に置かれています。ブラジル学校を例に、外国人学校に通う子どもの状況についてみていきたいと思います。
 
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ブラジル学校は現在全国に56校あり、大きく分けるとブラジル政府が認可した学校と無認可校の2つに区分できます。そして、認可校のうち15校が各種学校です。各種学校とは都道府県知事が認可した学校で、法律上は自動車教習所などと同じ扱いです。
 
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日本で普通教育を行う正規の学校と、ブラジル学校との違いを比較したものがこの表です。
まず、国庫助成や税制関係の扱いが異なることがわかります。外国人学校は正規の学校に認められている国や自治体からの公的支援が得られないため、保護者が支払う授業料のみで経営されています。そのため、2008年秋の経済危機の後、多くの保護者が失業したことから授業料の支払いができなくなり、外国人学校の経営はとても厳しくなりました。その結果、ブラジル学校については、経済的な理由から不就学に陥る子どもが急増しました。
そして、ピーク時には全国に100校以上あったブラジル学校が現在は半数になってしまい、財政的な支援などが受けられないという制度的な問題により、子どもの学び舎が失われつつあるのです。
 
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つぎに、子どもの健康にかかわる法の扱いも異なることがわかります。各種学校であっても学校保健安全法の対象外であるため、一度も学校健診を受けたことのない子どもも実在します。ある2つのブラジル学校で、私は医師や行政の協力を得て学校健診を行ったことがあります。いずれも約200人の子どもが通う学校でしたが、約4人に一人の子どもが視力に異常があることがわかりました。このように、外国人学校に通う子どもは健康も守られていないのです。
加えて、外国人学校に通う子どもは進路選択の問題も抱えています。公立高校の入学者選抜の出願資格は各自治体が判断していますが、外国人学校の中等部を卒業した人にその資格を認めているのでしょうか?
2年前、私は全ての都道府県および政令都市の合計60の自治体を対象に調査を行いました。
 
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50の自治体から回答を得た結果がこちらの図です。外国人学校の中等部の卒業者を公立高校への入学のための出願資格者として認める自治体はわずか14の自治体しかなく、限られた自治体だけであることがわかりました。
 
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その一方で、外国の学校、つまり国外にある学校で9年間の就学をした人については、すべての自治体は公立高校への入学資格を認めています。つまり、外国人学校の中等部は、日本の学校でも、外国の学校でもないという扱いがされているのです。
では、大学進学についてはどうでしょうか?
国はブラジル政府の認可校の高等部を卒業した人に対しては、日本の公立大学の入学資格を認めています。ここではブラジル学校を例にしましたが、外国人学校のなかには、公立大学の入学資格や高校無償化制度の対象になっていない学校もあるのです。

このように国が外国人の就学を法的に保障しないことが、外国人の子どもの不就学や様々な苦難をもたらす原因になっています。また、自治体によって外国人に対する公立高校の入学者選抜や入試の特別措置等が大きく異なるため、自治体間でも格差が生まれています。
こうした格差は、公立中学校の卒業者の進学を断つ原因にもなっているのです。
日本の学校では学習指導要領の理念である「生きる力」を育む教育が行われています。
国際社会の共通目標である「普遍的な初等教育の達成」は来年が期限とされているなかで、外国人の子どもに対しても「生きる力」を育むための施策を実施することは、日本政府に課せられた大きな「宿題」であり、先進国としての責務ではないかと、私は考えます。

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