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慶應義塾大学教授 樋口美雄
 
問題意識と結論
東京をはじめ大都市圏では新しいビルが次々に建てられるなど、経済が活気を取り戻していますが、地方では急激な過疎化の進展が叫ばれています。若者が仕事を求めて地方から大都市に移動し続けるとしたら、少子高齢化が進展する中で、地方の人口は、どうなるのか。そして地域は生き続けることができるのか。
こうした問題意識に基づき、われわれは、学識者や産業界などの有志でつくる研究会を立ち上げ、客観的な統計に基づいて検討を重ねてまいりました。
その結果、このままの状態が続く限り、多数の自治体で人口は急減し、高齢化が進展して、消滅してしまう可能性のあることがわかりました。きょうは、その結果を踏まえ、いま少子化や人口流出の問題に各自治体はどう立ち向かうべきなのかについて考えてみます。

自治体ごとの将来人口推計
市町村や県単位で地域の人口が将来、どうなるかは、昨年3月に、国立・社会保障・人口問題研究所=社人研が推計を行っています。
 
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これによりますと、2010年の総人口を100としますと、全国では30年後に16%減って84になると推計しています。しかし地域によってその差は大きく、東京では6%余りの減少にとどまり、94程度になるのに対し、たとえば秋田県では64に急減し、高知県では70に減ると推計されています。
これに伴い、65歳以上の高齢者比率も上昇し、全国では2010年の23%から36%に上昇しますが、その上昇には地域によって大きな差があります。
ただわれわれはこの推計は地方でまだ人口が過大に推計されている可能性があると考え、社人研と多少違った想定に立って、推計を行うことにしました。
各自治体の人口規模や年齢構成を推計するには、その地域の出生率や死亡率と同時に、地域間の人口移動が重要になります。
そこで出生率や死亡率は同じように想定する一方、人口移動については、社人研が将来的に人口移動は収束すると仮定したのに対し、今後も人口移動は収束せず、現在と同じような状態が続くと想定するとどうなるかを検討しました。
 
20代・30代女性の人口の推移と大都市圏への流出
 
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人口推計を行う場合、多くの子供を産んでいる20代、30代の女性の数がどうなるかが重要な要素となります。社人研のように人口移動率が将来的に一定程度に収束すると仮定しますと、20代、30代の女性の数は2010年から40年にかけて半分以下になる自治体は21%ですが、人口移動が収束せず、現状のままですと、この自治体の割合は50%に増加します。
こうした女性の数が半分以下になりますと、どんなに出生率を引き上げましても、出生児の絶対数を増やすことはもはや難しくなります。われわれは、こうした自治体を消滅可能性都市と呼んでおりますが、人口移動が今のまま続きますと、約半数の自治体がそうなり、秋田県などでは9割を超える市町村が消滅可能自治体に、また青森県、岩手県、山形県、島根県でも8割以上の市町村がそうなると推計されています。他方、九州はもともと出生率は高いのですが、それだけ人口の流出の影響は大きく、いまのままでは消滅可能都市になる自治体が急増することがわかります。
 
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過去の東京圏への人口流入を見ますと、いくつかの波が見られます。このグラフでは青い線が東京圏への人口の流入者数を、赤い線が東京圏とそれ以外の地域の有効求人倍率の格差を示しています。両者は平行して動いているように見えますから、地方で雇用が減り、東京で求人が増えると、多くの人が東京に移住してくることがわかります。
また東京と地方との所得格差が拡大しても、同じように多くの若者が地方から東京へ移り住む人が増えることがわかります。
 
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こちらのグラフは東京における女性の人口が5年後にどのように変化したかを示しています。たとえば20~24歳の女性が5年後の25~29歳になると人口が東京で増えたのかどうかを示しています。以前は、地元に帰ったり、20代以降になりますと、他県へ移り住む人が多かったために、この年齢層の東京の人口は減りました。しかし2000年以降、地方に雇用がないために、東京に残ったり、あるいは地方から流入したりする人が増えて、東京の人口はこの年齢層でも増える傾向にあります。
他方、地方においては、人口規模の小さな道府県ほど、人口の減少率は高く、しかも近年、その傾向は強まっています。
雇用の多い大都市圏に人口が移動すれば、地方の失業問題は解決し、短期的には全体として生産性は向上します。しかし、一方で地方は衰退を早め、長期的には限界集落問題など、社会の負担は拡大せざるを得ません。
人口移動が今後収束するかどうかは、地方にどれだけ魅力的な雇用機会が創り出されるかにかかっています。統計によりますと、地方における雇用は、現在、もっぱら医療や社会福祉によって創りだされています。しかしすでに高齢者人口の減少する自治体も増えてきており、いつまでも医療や介護に頼った雇用創出に期待することはできません。今後、どのような産業で雇用を創りだしていくかが問われることになります。

地域戦略協議会の設置と国の支援
地域における人口の急減を食い止めるには、まず結婚し、子どもを持つことを希望しながらも、いろいろな制約から結婚できない、子どもを持てない人が希望を叶えられるように少子化対策を講じることが大切です。結婚や出産を阻んでいる理由は全国共通な要因と地域によって異なる要因があります。
全国的な要因として、経済的に子どもの養育に多額の費用を要するとか、女性に育児の負担が集中しすぎているという問題があり、保育施設を拡充するのと同時に、男性も働き方を見直し、仕事と生活の両立が可能になるようにしていく必要があります。これと関連し、大都市では保育所の待機児童問題や長い通勤時間問題、住宅問題などが主因になっていますが、地方では若者の雇用が安定せず、生活に不安を感じている人の多いことが結婚や出産を妨げている要因として挙げられます。各自治体で地域が求める少子化対策を講じていく必要があります。
第2に若い人たちの人口の流出を食い止めるには、良好な雇用機会を創りだし、魅力ある生活が送れるようにしていくことが大切です。グローバル化した社会の中で、地域の特色を生かした就業機会を創るに、地域が危機感を共有し、一体となって取り組んでいく必要があります。また、住民サービスにしても、各自治体が同じようにすべてをワンセットにして整えていくのではなく、地域の中核都市が周囲の自治体と連携して、それぞれの役割を分担していくことも必要になるでしょう。
それでも人口の急減と高齢化の急速な進展を余儀なくされる過疎地域は増えてくるものと思われます。今のうちから、それに備え、コンパクトシティ化を進めるなど、選択と集中の対策を進めていく必要があります。
だれも自分の住んでいる地域の衰退を考えたくはありません。しかし不都合な事実に目をふさぐことなく、数字に示された現実を客観的に見つめ、勇気をもって、立ち向かっていくことが求められます。それぞれの自治体が、国と協力して自らの総合的な対策を実施する「地域戦略協議会」を設置し、それぞれに応じた対策を講じていくことが必要です。対策は早ければ早いほど、効果は大きいといえます。

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