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関西学院大学客員教授 大崎麻子
 
あす、3月8日は国際女性の日です。
国際女性の日は、1908年3月8日に、ニューヨークの縫製工場で働いていた女性たちが、劣悪な労働環境の改善や女性参政権を求めてニューヨークでデモ行進を行ったのが起源だと言われています。
1977年に、国連総会は3月8日を「国際女性の日」と定めました。
今日は「国際女性の日」にちなんで、女性の視点から、東日本大震災の復興にいたる道のりを考えたいと思います。

私は震災直後から、国際NGOオックスファム・ジャパンのジェンダー・アドバイザーとして、被災地の女性支援に携わってきました。
オックスファムは、世界90カ国以上で貧困問題に取り組む国際NGOです。
オックスファム・ジャパンは支援が手薄なところに集中支援しようということで、シングルマザー、妊産婦、外国人女性、災害後に増える暴力被害者など、特に困難な状況にある女性たちへの支援を開始しました。

支援を始めてから3年が経とうとしています。
私たちは、地元の支援組織と協力し、シングルマザーの就労支援や、女性のための起業支援を行っています。就労支援や起業支援というと、コンピュータースキルの習得や就業機会の情報提供や起業ノウハウの伝授かなと想像しがちですが、それだけでは充分ではありません。
被災で受けた心や身体のストレスを緩和し、「頑張ろう」という前向きな姿勢を作るような支援、女性が働き続けるための環境づくりが必要です。
2つの事例をご紹介します。

岩手県のひとり親支援団体「インクルいわて」は、シングルマザーのための包括的就労支援事業を試験的に行いました。
大きな目的は、ひとり親と子どもたちの生活再建と持続的な生活基盤作りです。
シングルマザーが必要としているのは、単なる職業訓練や職探しの手伝いではなく、「就労支援」「生活支援」「子育て支援」を組み合わせた複合的な支援です。

事業は、3つの柱によって構成されました。
1つ目の柱は、「就業支援ルームでの6ヶ月間の就業研修」です。
パソコンを習熟し、心の準備ができた研修生には履歴書の書き方やハローワークでの求人検索の仕方など、就職活動に必要な情報を提供しました。
研修生とは有期雇用契約を結び、給与を支払う事で、履歴書に記載できる直近の「実務経験」にしました。
2つ目の柱は、「パーソナル・サポート」です。
研修生ひとりひとりにサポーターがつき、生活相談にのります。
住居のこと、育児のこと、経済的なことなど、研修生が抱える様々な生活問題の解決を支援することで、生活の安定を図りました。
3つ目の柱は、「シングルマザーズカフェ」です。
同じような境遇にある人たちとの交流や連帯意識を通し、自己肯定感を高め、前向きに生きていく意欲の醸成を図りました。
また、親子でリラックスできる場や、子どもが身体を動かして発散できる場を提供しました。

6カ月にわたる研修の結果、研修を開始した時には、震災によって夫を亡くしたり、離別したりして、心身ともに厳しい状況にあったシングルマザーでしたが、自己肯定感を取り戻し、子どもたちとの生活基盤を再構築することができました。卒業生は現在就労中もしくは就職活動中です。
これは、来年4月に施行される「生活困窮者自立支援法」の柱の一つとなる中間的就労支援のモデル・ケースになるのではないかと思います。

もうひとつの事例です。
宮城県南三陸町と気仙沼市では、女性支援団体の宮城ジョネットからの要請で、会社を立ち上げたいと起業を希望する女性たちへの支援を行っています。
女性の起業の特徴は、地域の問題を解決したい、地域を活性化させたいという動機が多いことです。
南三陸町と気仙沼市でも、仮設住宅に住む高齢者のために介護保険ではカバーできないプラスアルファのサービス、例えば病院への付き添いや県外の家族とのコミュニケーションを提供して健康管理の手伝いをしたい、仮設住宅の台所では凝った料理を作るのが難しいので、コンビニ弁当を食べる人たちが多いのだけど、成長期の子どもたちの栄養が気になるので、土地の食材を使って、バランスのとれた惣菜を作り、販売したい。など、起業の目的に、自分の特技や職業経験を活かして、地域の問題解決を図っていきたいという女性たちがたくさんいます。

そこで、起業に向けた支援の前段として、女性たちが心身ともに健康になり、知識や情報を身につけ、長期的な展望のもとに働く準備を整えるための取組みを行っています。
女性のための連続講座を3回にわたって開催しました。1回目は、産婦人科医による、女性の心と身体の健康について学ぶセミナーです。ホルモンバランスや女性特有の健康やメンタルのリスクなどについて知識を得たり、相談できる機会をつくりました。
2回目は、ファイナンシャルプランナーによる、家計管理のセミナーです。
長期的な視点から家計を見直し、働く意欲を引き出そうという試みです。
3回目は、生活困窮者支援の専門家による、社会制度の活用セミナーです。
家族の問題、子育ての問題、経済的な問題などを一人で抱えるのではなく、適切な社会制度を活用し、生活を再建していこうという趣旨です。
各回とも「もっと早くに知っておきたかった」「今日得た知識は直ぐに活用できる」「将来に向けて背中を押してもらった」といった声がありました。

震災直後は、気持ちに張りがあった人も、時が経つにつれて、疲れが出てくるようです。社会的包摂サポートセンタの報告によると、被災三県の相談者で一番多い年齢層は、40代、次いで30代です。
仕事と子育てに忙しい、いわゆる稼働年齢の女性が生きづらさや生活上・仕事上の問題を抱えていることがわかっています。
心身の健康のケアや、生活・就労・子育てを包括的に支援するアプローチが必要とされています。

また、女性が働く上での最大のハードルは、保育・介護・看護など、家族の世話に関する「ケア労働」の責任だということもわかりました。
これは被災地に限らず、日本の女性全体似に共通するところです。
就労研修を受けるにしても、実際に働きに出るにしても、女性たちが家庭で担っている「ケア労働」の負担を軽減しないことには継続的に働くことは難しいのです。
ケア労働を女性だけの責任にするのではなく、どのように家庭内や地域社会で再分配するのかが大きな課題になります。

安倍政権が掲げる「女性が輝く社会」とは、女性たちが心身ともに健やかな状態で生き、働き、家庭生活を営める社会だと思います。
そのためには、環境整備が必要です。
復興支援の一環として、女性のニーズに合致した支援にしっかりと投資することです。
その投資は、一人一人の女性の生きる力を育むだけではなく、必ず、家族や地域社会に還元されていきます。

成功事例を各地で積み重ね、来年3月に仙台で開催される第三回国連防災会議で世界に向けて発信できれば、国際社会の災害対策における日本の大きな貢献にもなることでしょう。
 

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