解説アーカイブス これまでの解説記事

視点・論点

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

活弁士 山崎バニラ

本日もにぎにぎしく『視点・論点』をご高覧いただき、まことにありがとうございます。活動写真弁士の山崎バニラでございます。突然ですが、皆さまが現在ご覧になっている映画は音楽も台詞もついていますよね?ところが明治から昭和初期にかけてはまだ音声がついていない無声映画でございました。映像が動くだけでびっくりした時代。「わ!写真が動いた!」というわけで、「活動写真」と呼ばれておりました。この活動写真に全ての登場人物の声をつけ、語り部も担当したのが活動写真弁士。弁士の文化はほぼ日本独特に花開き、全盛期には8千人。しかし現在十数名。私もその中の貴重な一人でございます。本日は無声映画という素晴らしい文化財、そして、現在の活動写真弁士の役割について考えるところをお話いたします。されば絶大なるご喝采のうちに活弁士・山崎バニラの視点・論点、ごゆるりと、ご覧あ~れ~

っとこのように弁士は映画の上映前に前説もしていました。技術的な問題でまだ短編映画しか作られなかった頃は三十分も前説をして時間を稼ぐ方もいたそうです。現在、私は1時間以上の作品を活弁することもありますが、各作品の上映前に必ず前説をしています。なぜなら、百年ほども前の映画を観るには時代背景や制作秘話、出演しているスターの予備知識があった方がより楽しめるからです。作品解説だけならパンフレットでも済むお話ですが、「無声映画って難しいのではないか…」と身構えているお客様にリラックスしていただくためにも、小噺も交えて自分の声でお伝えしています。
 
このように活弁ライブの準備で大きな割合を占めるのが調べものです。前説のためだけでなく、弁士は自分で台本も書くからです。頼りになるのは要所要所でスクリーン中央にドドンと出てくる数行の字幕のみ。どの登場人物にどんな台詞をしゃべらせるか、はたまた黙って映像だけを見せるか、ナレーション風に進行するか、弁士によって物語の解釈まで変わることがあります。無声映画黄金期、各館に専属弁士がつくようになると、人々はやがて「映画を見に行こう」ではなく「弁士誰々を聞きに行こう」といったほど、日本独特の映画鑑賞文化が発展しました。
海外では生演奏のみで無声映画を鑑賞するのが主流だったようです。一方、日本の無声映画には弁士がうたいあげるためのシーンが用意されていることもありました。かつては弁士番付が発表され、時の総理大臣より高級取りの人気弁士もいたほどでしたが、3D映画華やかなりし現在は業界団体も認定機関もありません。ですから、国から補助金をいただくわけでもなく、落語でいう真打ちのような昇進制度もないので心細いようですが、一方では、自由な発想を形にしやすい環境でもあります。
例えば、楽器の弾き語り活弁をするのは私だけのようです。弾き語りと言っても、弾きながら歌うのではなく、弾きながらしゃべるのです。史上初と言われておりますが、このままだと最初で最後ということになります。アニメや、時代劇は大正琴弾き語りで、洋画はピアノ弾き語りで一人全役を演じます。長時間の作品は手があいたすきに給水ポイントも作るなど、まるでマラソンランナー気分でステージを乗り切ります。

長編ですと楽譜は60ページにもなりますので、今はパソコンで楽譜を作成しています。弾き語り活弁は、DVD再生機やパソコンのお蔭でち密な準備ができる現代だからこそ成り立つと思います。無声映画全盛期はビデオもない時代ですから、諸先輩は試写を見ただけでステージに立っていたかと思うと、とても尊敬いたします。 
活弁ライブの終演後お客様に「無声映画がこんなに面白いとは知らなかったよ」とお声をかけていただくと、「あぁ、活弁をしてきてよかったな」とつくづく思います。例えばアメリカの喜劇、CGなどない時代にどうやって撮影したのかと思うほど体を張ったドタバタコメディが繰り広げられます。また旧ソビエト連邦の国策映画、「よくこれが上映できたな」と思うほどブラックユーモアたっぷり、宣伝に協力できているとは思えないような作品もあります。そして日本の漫画映画、まだアニメーターという職業が確立されていなかった時代に切り紙アニメや千代紙アニメが驚くほどの滑らかさで動き、アニメ大国日本の原点に感動いたします。当時の人々の生活がよくわかるうえに、映画産業創世記ならではの、ハチャメチャな展開や手探り感も含め、私は無声映画が大好きです。現在も同じ映像とは思えぬほど、弁士の個性が反映されていますので、機会がありましたら是非聞き比べてみてください。
 
さて、肝心の映像ですが、公開当時は二時間の大作だった無声映画も、フィルムが劣化したりなくなったりしたために現存するのは二十分程という作品もあります。ダイジェストならともかく、運よく残ったシーンをつなぎ合わせても、ストーリーがさっぱりわからない。ところが活弁がつくとあら不思議、起承転結きちんと物語になるのです。その陰で私たちは台本作りに時間をかけます。私の場合、新しく台本を書くときにはまず無声映画に関する蔵書が多い古書店へ行きます。失われたシーンの様子もわかるボロボロの資料をお手頃価格で見つけたりすると、小躍りしたくなる気分です。本当に困ったときには雑誌のコーナーで資料を募集したこともあります。このときは情報だけでなく、人のネットワークも広がりました。
 
そのご縁で2012年に参加したのが「映画の復元と保存に関するワークショップ」です。ここ数年、夏に京都文化博物館などで開催されています。全国から集まり、2日間、朝から夕方まで映画の復元と保存の現状報告や成果発表が続きます。博物館、NPO、映画会社、修復技術者などの、アーカイブ第一線の方々は、デジタルとフィルム双方の長所を生かしつつ、貴重な映像を残す方法を模索しています。予算や長期的な計画、人員、法整備が急務だと思いました。
クールジャパンの膨大な成果も、資産として管理・活用しないとやがては散逸してしまいます。博物館に眠っている名作を歴史的資料としてだけでなく、今を生きるお客様にも楽しんでいただくことで、貴重な文化財が適切に収集保管できるのだと思います。弁士にはその使命もあると、映画を愛する多くの方々と接して、強く思いました。また資料集めの苦労からもわかるように、大切なのは作品そのものだけでなく、時代背景や作り手の人物像など、周辺情報も残しておくことです。もし、ご自宅に謎のフィルムや時代考証に役立ちそうな書き物が保管してある方は是非しかるべき機関にご相談くださいませ。
映画は作る人、残す人、見せる人、見てくださる人、どれが欠けても継続や発展はしません。本日の視点論点はいわば、無声映画の前説です。是非、生の活弁ライブにご来場ください。ご清聴まことにありがとうございました。

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

キーワードで検索する

例)テーマ、ジャンル、解説委員名など

日付から探す

2017年02月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28        
RSS