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ウクライナ・ゼレンスキー政権 汚職や不祥事で綱紀粛正

安間 英夫  解説委員

ロシアの軍事侵攻が続くウクライナで今月、汚職や不祥事で政府の幹部が解任される事態が相次ぎました。
ゼレンスキー政権に対する内外の信用に関わるこの問題について聞きます。

Q1)ウクライナのゼレンスキー大統領、土台にひびが入っているようですが。
A1)

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汚職や不祥事が足元を揺るがしています。
ウクライナでは今月、インフラ施設を担当する省庁の高官が発電機などの調達をめぐって日本円で5000万円相当の賄賂を受け取っていた疑いで逮捕されました。
また国防省の幹部が兵士のために調達する食料の価格を水増ししていたとされる不透明な取引の疑惑が明らかになりました。
さらに大統領府幹部が外国から提供された車を私物化していたとして、また検察幹部も戦時下で成人男性の出国が原則禁止されているのにスペインで休暇をとっていたとして問題視され、それぞれ解任されました。
こうした一連の汚職や不祥事が発覚したのは地元メディアの報道で、ゼレンスキー大統領は対応を迫られ、綱紀粛正を図ったと言えます。

Q2)こうした問題はこれまでもあったのでしょうか。
A2)

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汚職はウクライナの長年の課題でした。
そもそもゼレンスキー大統領は4年前、2019年の大統領選挙で当時の現職の大統領に対して汚職対策を公約に掲げて勝利を収め、当選を果たしました。
ところがこれまで目立った成果をあげられず、国際的なNGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」の汚職撲滅度の順位(2021年)で、ウクライナは180の国と地域のうち122位。
ウクライナはEU=ヨーロッパ連合への加盟を目指してきましたが、そのEUからも汚職対策を求められてきました。

Q3)この問題、軍事侵攻しているロシアはどう見ているのでしょうか。
A3)

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ウクライナに揺さぶりをかけてきたと言えるでしょう。
プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻前、去年2月の演説で、「ウクライナの汚職は尋常でない。汚職は国家体制を浸食している」と述べ、ゼレンスキー政権は国民にとって信用に足る政権ではないと一方的に主張してきました。
ただロシアは同じ汚職撲滅度の順位でウクライナより低く136位。
ウクライナを非難できるような状態ではありません。

【追記:放送後、「トランスペアレンシー・インターナショナル」の汚職撲滅度の順位(2022年)が発表されました。最新の汚職撲滅度の順位は、180の国と地域のうち、ウクライナが116位、ロシアは137位となりました。】

Q4)そのほか外国の反応はどうですか。
A4)

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一番多くの支援を行ってきたアメリカ政府は今のところ、▼アメリカの支援に関係していないこと、また▼ゼレンスキー政権が汚職を正すため「迅速で断固とした対応」をとったこと、さらに▼メディアや市民社会の監視が機能していることをあげ、大きな問題にはしない考えを示しています。ただ野党共和党からは懸念の声も上がっています。
ゼレンスキー政権が汚職の問題で内外の信用を失えば、国民の士気や各国からの支援、さらにはロシアとの間の戦況にも影響を与えかねません。
これ以上広がることがないのかどうか、今後も注視していく必要がありそうです。


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安間 英夫  解説委員

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