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イスラエル 復活のネタニヤフ政権に強まる批判

出川 展恒  解説委員

中東のイスラエルで、政権復活を果たしたネタニヤフ首相の連立政権が打ち出す極端な政策への批判が内外で強まっています。出川解説委員です。

Q1:
ネタニヤフ政権のどんな政策が問題になっているのですか。

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A1:
まず、ネタニヤフ政権が、今月、議会に提出した司法制度を大幅に変える法案です。
たとえば、▼最高裁判所の決定を議会が過半数の賛成で覆すことができるようにする。▼最高裁の法律審査権を大幅に制限する。▼裁判官の選定に政府の意向がより反映されるようにする。このように、全体として、司法府の権限を弱める内容です。

Q2:
なぜ、そんな法案を出したのですか。

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A2:
極右政党などと連立を組むネタニヤフ首相は、現在の司法は左翼的だと批判しており、政府の決定に司法から待ったがかかるのを防ぐ狙いがあります。また、脱税で有罪判決を受けた連立与党の党首が閣僚に就任しましたが、最高裁判所は、法律違反だとして罷免を求めました。もし、法案が通れば、議会の過半数で罷免の決定を覆せます。さらに、ネタニヤフ首相自身が汚職の罪で裁判中の身です。この法案には、現職の最高裁長官を含む法曹界や野党勢力、学生などから司法権の独立と民主主義を損なうものだとして、大規模な反対運動が起きています。

Q3:
大変な事態ですが、背景にはどんな思惑があるのですか。

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A3:
ネタニヤフ政権は、パレスチナに対する占領政策を大幅に変えようとしているのです。極右政党の党首2人が、治安、および、占領政策を統括する閣僚に就任しました。1人は、さっそく、エルサレム旧市街のイスラム教の聖地に足を踏み入れました。これまでのいきさつを無視し、パレスチナ側を挑発する行為だとして、国際社会の批判を浴びています。もう1人の閣僚は、パレスチナ暫定自治政府に代わってイスラエルが徴収した税金の引き渡しを停止しました。パレスチナ側への制裁ですが、法的な根拠はありません。
「法の支配」を軽視するネタニヤフ政権、いずれ、占領地の併合など国際法を無視した政策に踏み切るのではないかという懸念が広がっています。


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出川 展恒  解説委員

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