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アメリカ"ねじれ議会"波乱の船出

髙橋 祐介  解説委員

アメリカ議会は、下院の多数党と大統領の所属政党が異なる“ねじれ”の状態で開会しましたが、下院で多数派を占める共和党の内紛で、新しい下院議長が決まらない波乱の船出となりました。髙橋解説委員とお伝えします。

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Q1)
けさのイラストは、議場でゾウが大暴れ?
A1)
開会2日目に入って、これまでに6回の投票が行われましたが、依然として新しい下院議長は決まりません。共和党は下院で222議席を占める多数派のはずですが、「フリーダム・コーカス」と呼ばれる保守強硬派グループの一部議員ら20人が造反して、マッカーシー院内総務の議長就任に反対票を投じているからです。
一方の民主党のジェフリーズ院内総務は、民主党議員212票すべての支持を集めましたが、こちらも過半数の218票に届きません。こうした再投票がくり返されるのは100年ぶり。議会下院は、共和党の内紛で、いわば仕事始めから躓いたかたちです。

Q2)
なぜ共和党の一部議員らは造反したの?
A2)
もともと「フリーダム・コーカス」は、共和党の中でも最も保守的な最強硬派とされています。過去にも予算審議で主張を押し通し、当時の共和党の下院議長を早期退任に追い込んだこともありました。マッカーシー氏が議長になったら、民主党との妥協に応じるのではないかと強硬な姿勢を崩しません。トランプ前大統領を支持する議員が多いのも特徴ですが、そのトランプ氏がマッカーシー氏に投票するよう呼びかけても聞く耳を持ちません。いまの共和党は、こうした妥協を拒むひと握りのいわば“狂暴なゾウ”を長年放置してきたツケを支払わされているのです。

Q3)
では、これからどうなる?
A3)
アメリカ議会には、党の方針に議員が従うよう求める日本のような党議拘束がありません。マッカーシー氏は議長の座を諦めず、民主党側も投票棄権などの取引に応じる気配はありません。このため、誰かが音を上げるまで何度でも再投票がくり返されるかも知れません。南北戦争の前には、議長が決まるまで133回の投票がくり返された記録もありました。
しかも、仮に新しい議長が選ばれても、予算や法案審議で同じような造反が起きかねず、今後も“決められない政治”が問題となりそうです。
党派対立に加えて党内抗争もますます激化する議会下院は、新年の出だしから機能不全を露呈しています。


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