アメリカ南部や西部で、メキシコとの国境を不法に越えてくる人への対応策が注目されています。髙橋解説委員とお伝えします。
Q1)
けさのイラスト、このダムのようなものは何ですか?
A1)
不法移民をせき止めて追い返すために使われてきた法律上の緊急制限措置をダムに喩えてみました。トランプ前大統領がコロナ対策を名目に引用した80年近くも前の公衆衛生法の条項から「タイトル42」と呼ばれます。
この措置の効力が、21日に切れる予定でしたが、南部テキサス州のアボット知事など、多くの共和党知事の州が存続を求め、連邦最高裁はひとまず暫定的な延長を認めました。
ただ、今後の裁判次第で、いつダムが決壊するかわかりません。
Q2)
ひび割れた穴から人が入ってきていますが?
A2)
移民に寛容なバイデン政権の発足以来、現実の“国境の壁”は建設が取りやめとなり、主に中南米から陸路の不法入国者はいま、1日あたり数千人に上るとみられています。
そうしたビザを持たずに不法に国境を越えてきた人でも、国境管理当局に保護を申請することが可能です。審査が終わるまでは、何年かかっても、アメリカ国内に滞在できるのです。
そのため、保護の申請を事実上受け付けず、いわば問答無用で追い返す「タイトル42」がなくなれば、不法入国者は、さらに倍増すると予想されています。すでに収容施設は満杯の状態で、テキサス州の“国境の町”エルパソは非常事態を宣言しています。こうした混乱に拍車がかかるでしょう。
Q3)
この「タイトル42」をこのまま残せないのですか?
A3)
それもそうなのですが、バイデン政権は「タイトル42」の撤廃を公約しています。アメリカに保護を求めてきた人を追い返すことには、人権団体などから強い批判があるからです。ところが、移民希望者が殺到し、受け入れ体制の予算も人員も追いつきません。移民制度を抜本的に改革しようにも、民主・共和両党で意見が真二つに割れています。
壊れかけた緊急制限措置の存廃をめぐる論争は、“移民の国”アメリカの矛盾と分断を象徴しています。
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