アラブ諸国の民主化運動の先駆けとなった北アフリカのチュニジアで、17日、議会選挙が行われました。しかし、野党勢力が軒並み投票をボイコットし、民主化の行方が危ぶまれています。
出川解説委員です。
Q1:
チュニジアの議会選挙、なぜ、野党勢力がボイコットしたのですか。
A1:
チュニジアでは、ちょうど12年前、失業中の若者の焼身自殺をきっかけに、民衆の抗議デモが一気に広がり、長期独裁政権が倒れ、その動きがアラブ各国に広がり、いわゆる「アラブの春」の先駆けとなりました。チュニジアは、新しい憲法の下、話し合いと投票で物事を決めるようになり、「アラブの民主化の唯一の成功例」とも呼ばれました。
ところが、数年前から、政治対立と経済悪化が顕著になり、元は憲法学者だったサイード大統領が、去年、議会を一方的に停止し、今年は、憲法を改定して、大統領に権限を集中させ、議会の役割を著しく制限しました。このため、主な野党は、大統領のやり方は権威主義的だと抗議して、選挙をボイコットしたのです。
Q2:
チュニジアの国民は、こうした現状をどう見ているのですか。
A2:
12年前、国民の多くが、民主化が進めば、経済が良くなり、失業問題なども解決するだろうと大きな期待を抱きました。しかし、今では、完全に裏切られたとして、失望感や政治不信が充満しています。今回、投票率は、わずか8.8パーセントでした。主な野党は、サイード大統領の退陣を求め、抗議運動を行う構えです。
実は、アラブ諸国の民主化、どこもうまく行っていません。エジプトも、軍人出身のシシ大統領による権威主義的な政権となっていますし、シリア、イエメン、リビアでは内戦の混乱が続いています。
Q3:
その原因をどう見ていますか。
A3:
民衆の抗議デモで独裁政権が倒され、形式上、民主的な憲法や選挙が実現しても、民主主義というものが、広く国民に理解され、定着するには、国民と指導者の不断の努力と、長い年月が必要だということです。そして、国民の多くが、暮らしが良くなったと実感できなければ、民主化は決して成功しない、そのことを痛感させられます。
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