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G7対ロシア制裁の一方でロシア産原油輸入を増やすインドの思惑

安間 英夫  解説委員

欧米と日本でつくるG7=主要7か国などは今月、ロシア産原油の取引価格に上限を設ける新たな制裁を開始しました。
しかしインドは、ロシアによるウクライナ侵攻後、これまでインドはロシア産原油の輸入を増やしてきました。その思惑について聞きます。

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Q)インドのモディ首相がG7とロシアの間で巧みにバランスをとっているようですね。
A)
G7がロシアに制裁の矢を放つ中、インドはG7と良好な関係を保つ一方、ロシア制裁に加わっていません。
ただモディ首相は9月に行われたプーチン大統領との首脳会談で「今は戦争をする時ではない」と直言しました。
さらに今月からG20=主要20か国の議長国になったのにあたり、新聞への寄稿で「われわれの時代は戦争の時代である必要はない。本当にそうであってはならない」と指摘し、ロシアは戦争をやめるべきだと訴えたのです。

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Q)それなのにロシアから原油の輸入を増やしてきたのですか。
A)
インドのロシア産原油の輸入量は、ウクライナ侵攻後急速に増え始め、先月は去年と比べておよそ10倍の水準まで拡大しました。
ヨーロッパが制裁で減らした分をインドなどが買うという構図となっています。
こうした現状にウクライナのクレバ外相は先週、「非道徳的だ」と非難しました。

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Q)それでも輸入を継続するのはなぜでしょうか。
A)
インド政府は、世界的な物価上昇で貧しい国民が打撃を受けるおそれがあり、制裁の影響で安くなったロシア産原油を輸入することが必要だと説明しています。
そもそもインドはロシアと冷戦時代からの友好国で、ロシア製の兵器も購入してきました。
一方欧米に対しては、長年イギリスに支配された歴史もあり、不信感が残っています。
インドが非難されるなら、ヨーロッパは今もロシアから原油や天然ガスの輸入を続けているではないか、インドだけ非難されるのはおかしいという理屈です。

Q)ロシアに対する制裁の効果が薄れてしまうのではないのでしょうか。
A)
確かにその懸念はあります。
ただG7などは、ロシア産原油が国際市場にまったく出回らないと供給不足となり、原油価格が上昇するおそれがあると見ています。
そしてインドもロシア産原油の禁輸が難しいことを見越しています。
さらにG7の制裁でロシア産原油の取引価格に上限が設けられることは、買う側のインドにとっても有利な条件となります。
インドの外交姿勢は節操なく見えるかもしれませんが、戦争に反対しつつ、欧米とロシアのどちらにも与せず、自主独立で双方から実利を追求するというしたたかなものです。
欧米や日本にとって、一筋縄でいかないことを改めて認識しておく必要がありそうです。


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