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イラン 苦境に立つライシ政権

出川 展恒  解説委員

中東のイランでは、保守強硬派のライシ政権が、内政と外交の両方で大きな問題に直面し、苦境に立たされています。出川解説委員です。

Q1:
イラストは、袋小路に追い込まれたイランのライシ大統領ですね。どんな問題を抱えているのでしょうか。

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A1:
まず、内政ですが、2カ月以上も続く民衆の抗議デモです。スカーフの着用のしかたが不適切だとして、警察に逮捕された女性が死亡した事件をきっかけに起きたものですが、物価の高騰や失業問題などへの不満も背景に、全国に拡大しました。一部では、政権への批判にとどまらず、イスラム体制そのものに反対する抗議運動に発展しています。ライシ政権は、治安部隊を動員して、徹底的に抑え込む姿勢ですが、沈静化する兆しは見えません。

Q2:
外交の方は、どういう問題ですか。

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A2:
抗議デモに対する当局の弾圧で、大勢の若者が命を落としたり、逮捕されたりしていることについて、欧米各国は、重大な人権侵害だとして、イランの治安責任者に対する制裁を発動しました。これとは別に、イランが、ウクライナを軍事侵攻したロシアに、無人機を供与していたことも明らかになり、この問題でも、アメリカが新たな制裁を発動すると表明しました。加えて、イランは、核開発問題でも、国際社会の批判にさらされています。

Q3:
それは、どういうことですか。

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A3:
イランが、IAEA・国際原子力機関に申告していなかった複数の施設で、核物質が検出された問題をめぐって、IAEAの理事会は、先週(17日)、 イランに対し、すべての情報を提供し、査察に協力するよう求める内容の決議を採択しました。イラン側は、すでに解決済みの問題を蒸し返したものだと、強く反発していますが、この問題は、崩壊の危機にある「イラン核合意」を立て直すためのアメリカとの間接協議の大きな障害ともなっています。もし、この協議がまとまられなければ、アメリカの制裁は解除されず、新たな制裁も加わって、経済がいっそう悪化し、抗議デモも長引くでしょう。「ライシ政権の強硬姿勢が、かえってイランを苦境に追い込んでいる」。そのように思います。


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出川 展恒  解説委員

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