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継続できるか? ウクライナからの農産物輸出

出川 展恒  解説委員

ウクライナ産の農産物の輸出に関する先の合意について、ロシアが、履行するかどうか、繰り返し態度を変え、国際社会を動揺させています。
出川解説委員です。

Q1:
ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意ですが、ロシアの対応が二転三転していますね。

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A1:
はい。ロシア軍がウクライナの港を封鎖して、ウクライナから小麦などの輸出ができなくなり、世界的な食糧危機の原因の一つとなりました。国連とトルコのエルドアン政権が仲介して、7月下旬に合意が成立し、輸出が再開されました。ところが、ロシアは、輸出ルートに設定された海域が、ロシア軍への攻撃に使われたと主張して、先月29日、一方的に、合意の履行を停止すると宣言。深刻な食糧危機に直面するアフリカなどの国から、強い懸念が示されました。国連とトルコが、強く説得した結果、ロシアは、先週(2日)、合意に復帰し、ウクライナからの農産物輸出が再開されました。

Q2:
しかし、これで問題解決とは行きませんね。

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A2:
はい。そもそも、ロシアは、輸出ルートが攻撃に使われたという証拠を全く示していません。多くの専門家は、軍事的に劣勢に立たされたロシアが、いわば、「食料輸出を人質にとり」、ウクライナや国際社会に揺さぶりをかけたと見ています。今後の戦況しだいで、ロシアが、再びウクライナからの輸出に待ったをかけても、不思議ではありません。加えて、この合意は、120日ごとに延長する必要があり、最初の期限である今月19日が迫っています。

Q3:
合意を延長し、農産物の輸出を確保するには、何が必要ですか。

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A3:
引き続き、国連とトルコの仲介が、カギを握ります。国連のグテーレス事務総長は、「合意の延長と完全な履行を達成するため、全力で取り組む」と決意を示しています。一方、ロシアは、欧米諸国の制裁の影響で、自国の農産物の輸出が妨げられていると非難しています。ロシアとウクライナからの小麦の輸出量は、合わせて世界全体のおよそ3割を占めます。ウクライナ産とともに、ロシア産の農産物も、滞りなく輸出できるようにすることが、合意の延長を可能にし、世界的な食糧危機の緩和につながると思います。


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出川 展恒  解説委員

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