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混乱深まるイラク カギ握るサドル師

出川 展恒  解説委員

中東のイラクでは、1年近くも政治の混乱と空白が続き、デモ隊の衝突で犠牲者が出るなど、極めて深刻な事態です。出川解説委員です。

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Q1:
政治の混乱ということですが、何が起きているのですか。

A1:
カギを握るのが、こちら、イスラム教シーア派の宗教指導者、ムクタダ・サドル師です。

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異なる宗派と民族で構成されるイラクでは、人口のおよそ6割を占めるシーア派の主導で、政治が進められてきました。去年10月の国民議会選挙では、サドル師が率いるシーア派の政党連合が、最大の勢力となりました。しかし、他の政治勢力との連立交渉に行き詰まり、首相も、大統領も、選ぶことができず、今年6月、サドル派の議員全員が一斉に辞職し、選挙のやり直しを要求しています。
これに対し、ライバル関係にある別のシーア派の政党連合が、首相候補を擁立したため、サドル師を支持するデモ隊が議会や首相府に押しかけ、治安部隊との衝突で、大勢の死傷者が出ました。政治も経済もマヒし、国連が「国家存亡の危機」と表現するほど事態は深刻です。

Q2:
サドル師とは、どんな人物ですか。

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A2:
かつて、フセイン元大統領によるシーア派への弾圧で殺害された著名な宗教指導者の息子で、主にシーア派の貧困層の間で、絶大な支持を集めています。自らは立候補せず、今回、「政界からの引退」を表明したものの、実際には、支持者らを操り、政治をコントロールしようとする姿勢です。アメリカを敵視し、隣国のイランとも距離を置き、国際社会との対話も拒否しています。

Q3:
今後、イラクはどうなるでしょうか。

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A3:
サドル師は、自らの意向に沿う連立政権を樹立したいのか、それとも、現在の政治体制を覆す狙いがあるのか、その真意ははっきりしません。いずれにしても、サドル師の思惑と行動が、イラクの将来を左右すると言っても過言ではありません。
危機の長期化で、電力や食料の不足が深刻化するなど、人々の生活が脅かされています。産油国イラクの混乱は、国際エネルギー価格にも影響を与えるだけに、各勢力の対話による一日も早い事態収拾が望まれます。

(出川 展恒 解説委員)


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