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ロシア軍 "原発を軍事拠点化"

津屋 尚  解説委員

ロシア軍がウクライナ南部にある原子力発電所に武器を持ち込んで攻撃の拠点としています。これをきっかけに原子力災害が起きかねないと懸念が高まっています。津屋解説委員に聞きます。

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 Q:原発を軍事拠点化するなんて恐ろしいですね!

A:はい、極めて由々しき事態です。
この原発は、ヨーロッパ最大のザポリージャ原発。ウクライナ最大の大河ドニエプル川に面していて、川をはさんだ両岸にそれぞれの軍が位置しています。
川の南側を掌握するロシア軍は、敷地内に武器や弾薬を持ち込んで対岸の町やウクライナ軍を攻撃しています。対岸では多くの住民に死傷者も出ていますが、ウクライナ軍は反撃しづらい状況です。ロシア軍はいわば「原発を盾」に使っているわけで、国際社会からは強い懸念や批判の声が出ています。

Q:一方で原発敷地内への砲撃も伝えられていますね。

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A:はい。砲弾が使用済み核燃料の貯蔵施設近くに着弾して、一部の建物やモニタリング装置などが被害を受けました。ロシアとウクライナ双方は「相手の仕業だ」と非難しあっていて、ウクライナ側の攻撃なのか、ロシア軍の自作自演なのかわかっていません。現地の原発の関係者は「大惨事は奇跡的に避けられたが、奇跡は永遠には続かない」と強い危機感を示しています。IAEA・国際原子力機関は、原発の安全確保のため専門家チームを直ちに受け入れるよう求めています。

Q:ウクライナ南部は戦闘の激化が伝えられていますが、原発は大丈夫でしょうか?

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A:そこが本当に心配なところです。ウクライナ軍は今、南部の奪還作戦に乗り出しています。NATOの支援を受けて攻勢が伝えられていますが、原発を力づくで奪還するような作戦が行われるとすれば、極めて危険です。福島の事故でも明らかなように、原子炉そのものが無事でも、冷却装置の電源が切れてしまえばメルトダウンの恐れもあります。誰にとっても悪夢でしかない原子力災害の大惨事を回避するため、双方に強く自制を求めたいと思います。戦争だから仕方がなかったではすまされません。

(津屋 尚 解説委員)


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