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"人間環境宣言"半世紀 直面する課題

土屋 敏之  解説委員

◆50年前の6月16日、国連の会議で環境保護に関する宣言が採択された

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今から半世紀前、日本でも公害が社会問題になっていましたが、ヨーロッパでも大気や水の汚染、そして深刻な酸性雨で広大な森が枯れて、国境を越えた対策が必要だとの機運が高まっていました。こうした中、スウェーデン・ストックホルムで開かれた国連の会議で、環境保護は平和や経済発展と並ぶ人類の至上の目標であり、すべての政府の義務だとする「人間環境宣言」が採択されました。

◆環境対策の基本原則に

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宣言に拘束力はありませんでしたが、各国に環境汚染防止だけでなく、国際協力や格差の是正、さらに市民や企業の参画も求めるなど今日のSDGsなどにも通じる内容で、その後の環境対策の言わば基本原則になりました。
また会議の結果、国連の環境問題に関する機関であるUNEPが設立され、その後はオゾン層保護や温暖化防止など環境に関する多くの国際条約が作られ、その条文にも宣言が引用されるなど理念は定着してきたとも言えます。

◆今日の様々な課題

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一方で今日、かつてのような典型的な公害は減ったとしても、環境問題はむしろ規模を拡大しています。温暖化や海洋プラスチック汚染は悪化し続けていますし、経済のグローバル化にともない、ヒアリなどの外来生物や新型コロナのような感染症も一気に拡散しやすくなりました。さらにロシアのウクライナ侵攻で、「環境よりまず食糧やエネルギー」との空気も強まっています。
こうした問題の解決は容易ではありませんが、半世紀前に示されたように平和も地球環境も一国だけでは守れないのもまた確かです。こうした今だからこそ、「人類の至上の目標」に向け、各国が対話を重ね協調していく努力が重要だと思います。

(土屋 敏之 解説委員)


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