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内戦7年のイエメン 悪化する食糧危機

出川 展恒  解説委員

中東のイエメンの内戦が、かつてない深刻な食糧危機を招いており、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻もこれに拍車をかける形となっています。
出川解説委員です。

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Q1:
イエメンの内戦、相当長期にわたっていますね。

A1:
はい。先週、開戦から7年となりました。サウジアラビアなどの支援を受ける「ハディ政権」と、イランの支援を受ける反政府勢力「フーシ派」との間で、周辺国を巻き込んだ激しい内戦が続いています。フーシ派は、今月、ミサイルやドローンを使って、サウジアラビアの複数の石油施設を3度にわたって攻撃。サウジアラビア側も報復攻撃に出ています。イエメン内戦は、「世界最悪の人道危機」とも言われてきましたが、食糧不足がこれまで以上に深刻になっています。

Q2:
具体的にはどんな状況ですか。

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A2:
国連が今月発表した報告書によりますと、「飢餓」すなわち、十分な食糧が得られず、支援を必要とする人々が、今年の後半には、イエメンの人口のおよそ3分の2にあたる1900万人に達する見通しです。このうち、「飢きん」、すなわち、命を失うおそれもある最も深刻な状況に置かれた人々が、現在の5倍の16万人まで増えると予測されています。とくに深刻な影響を受けているのは、子どもたちです。

Q3:
ウクライナ情勢が、食糧危機に拍車をかけているのは、なぜですか。

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A3:
ウクライナも、ロシアも、世界屈指の小麦の輸出国ですが、戦争と制裁の影響で出荷量が激減し、世界の小麦価格が高騰しています。
一方のイエメンは、食糧のほとんどを輸入に頼り、小麦については、3分の1が、ウクライナからの輸入でした。現地で支援にあたるWFP・世界食糧計画は、新たな調達先を探す一方、状況に応じて、1人あたりの食糧の配給量を半分に減らす措置をとっています。こうした深刻な危機から脱するには、内戦の終結が不可欠です。しかし、ロシアとアメリカの深刻な対立で、国連安保理も機能しなくなっています。すべての関係国が、食糧危機にも注目し、一日も早くイエメン、および、ウクライナの戦争を終わらせなければなりません。

(出川 展恒 解説委員)


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