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新型コロナウイルス 原油が史上初の『マイナス価格』に

櫻井 玲子  解説委員

週明け(4月20日)のニューヨーク市場で、原油の先物相場が暴落し、事実上買い手がつかない「マイナス価格」となる史上初めての事態が、起きました。
その背景と今後の注目点について櫻井解説委員です。

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Q なぜこんな異例の事態となったんですか?

A 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、世界各地で経済活動が停滞する中、原油の需要が大幅に落ち込み、在庫の量が各地の貯蔵施設の限界に近づいていることが背景にあるんです。
取引量も少なくなる中、国際的な指標となるWTIの5月物の先物価格が、マイナスとなり、いわば売り手がおカネを払って原油を引き取ってもらうような事態、となりました。

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実は数週間前には、カナダ・アルバータ州で採れる原油に事実上、値がつかないような状況になり、現地では「ついに1バレルの原油がビール1杯より安くなってしまった!」と嘆く声もあがっていました。
こうした中、サウジアラビアやロシアなどの産油国は、先週、世界の生産量のおよそ1割にあたる量を減産すると合意したばかりでした。しかし需要の落ち込みには追いつかず、原油価格の下落に歯止めをかけられなかったのです。

Q 今後の影響、どこまで広がるのでしょうか?

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A はい。注目すべき点が二つあります。一つは産油国の国家財政への打撃です。多くの産油国で収入が大きく減ることになります。また先行きへの不安からロシア、ブラジル、メキシコなど産油国の通貨が軒並み売られ、通貨安に拍車をかけています。
このため、産油国が来月から始める予定の減産の前倒しに踏み切るか、も焦点です。

Q 二つ目の注目点はなんでしょうか?

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A アメリカのエネルギー産業への影響の広がりです。シェール関連企業の経営破綻が懸念されるほか、雇用や設備投資などに、幅広く、影響が及びそうです。
トランプ大統領はサウジアラビアからの輸入の停止も検討する、と話しています。
原油が安ければガソリンの値段も下がり、普段であれば、消費者にメリットもあるのですが、各地で外出の自粛が続く中、深刻な影響ばかりが目立つ形です。
原油の需要の低迷が長く続く懸念もある中、各国が協力し、もう一段の減産に踏みきるといった、思いきった打開策を打ち出せるかが問われています。

(櫻井 玲子 解説委員)


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