NHK 解説委員室

これまでの解説記事

米原子力空母で新型コロナ集団感染

津屋 尚  解説委員

感染は日本の安全保障にも関わるアメリカ軍の部隊にも広がっています。
アジアに展開中の原子力空母で新型コロナウイルスの集団感染が起きています。津屋尚解説委員です。

C200407_1.jpg

Q1:空母にまで感染が広がっているのですね?

問題の原子力空母は、セオドア・ルーズベルト。およそ5000人が乗っています。
中国をけん制するため南シナ海などに展開していたんですが、先月初めにベトナムに寄港した後で、乗組員に感染が判明。今はグアムの海軍基地の岸壁で隔離状態に置かれています。これまでに(7日朝現在)150人以上の集団感染が確認されていて、さらなる感染拡大も懸念されています。

Q2:なぜ感染が拡大したんですか?

C200407_7.jpg

空母の内部は密閉空間ばかりだからです。非常に狭い船室を大勢の水兵たちが共同で使っているので、集団感染が起きやすい環境です。空母の艦長は先週、「戦争以外で若い兵士を死なせるべきでない」と海軍の中枢に書簡を送ったことが報じられました。艦長は情報を漏らしたとして解任されてしまいました。その後、乗組員たちは陸上の施設に移動し始めていますが、原子炉の監視などのため1000人程度は船内に残らざるをえず、集団感染の収束は見通せません。いま命令を受けても、即座には出動できない状況です。

Q3:どんな影響が出てきそうですか?

C200407_10.jpg

日本にとって気がかりなのが、中国や北朝鮮などに対する抑止力の低下です。空母の存在は、日米の安全保障戦略の要ですが、もう一隻の空母ロナルド・レーガンがいる横須賀基地でも感染者が出ていて、アジアには今、直ちに運用できる空母がいない状態です。アメリカ本国では、感染者が世界で最も多くなり、軍も多くの勢力をその対応にさかざるをえません。アメリカが未曽有の危機にある現状を、中国やロシアなどが「軍事的な好機」ととらえかねないと指摘する専門家もいます。現に、中国海軍は活動を活発化させている模様です。新型コロナの感染拡大は、安全保障を揺るがしかねない問題でもあるのです。  

(津屋 尚 解説委員)


この委員の記事一覧はこちら

津屋 尚  解説委員

こちらもオススメ!