国連は、新型コロナウイルスが今後、医療体制が整っていない紛争地域や途上国に広がるおそれがあるとして、各国に支援を呼びかけています。
Q.途上国のリスクが高いのですね。
医療体制が脆弱で、保健衛生まで手が回らない国々は、いったん感染が始まれば爆発的に広がる可能性があります。とくに懸念されるのが紛争地域の住民や難民たちです。難民や避難民のキャンプでは、1つのテントに10人以上が身を寄せ合うことも少なくなく、マスクはおろか手洗いの水や薬、消毒液も足りません。内戦が続くシリアでは国外に逃れた難民以外に、600万人以上が家を追われたまま国内にとどまっていますが、北部では医療施設の半数が攻撃などによって機能せず、医療スタッフも攻撃の標的となっているため十分な検査や治療ができず、感染拡大のリスクが高いということです。このため国連は、こうした紛争や災害の被害者を感染から守るために検査用の器具や手洗い・消毒用設備の設置など20億ドル規模の人道支援への協力を各国に要請しました。
Q.シリアでは感染者は出ていないのですか。
シリア政府は今週はじめ、最初の感染者が出たことを認めましたが、詳細は一切明らかにされていません。また、シリアからレバノンに逃れた難民からも感染が確認されました。シリア以外にもリビアやアフガニスタン、アフリカのコンゴ民主共和国などで感染者が出ており、紛争地域の住民は新たな危険にさらされています。一方で難民として国外に逃れた人も8割が途上国で暮らしており、それらの国はこれ以上受け入れる余裕がありません。さらにEUが域外からの外国人の入国を原則禁止したため、多くの人が行き場を失っています。
Q.どうしたら紛争地域の人たちが安心して暮らせるようになるのでしょうか。
国連のグテーレス事務総長は、「今必要なのは、戦争という病に終止符を打ち、世界を荒廃させている疾病と戦うことだ」と述べています。「ウイルスの猛威は戦争の愚かさを如実に示している。あらゆる戦闘を今すぐやめる必要がある」。この言葉を重く受け止め、全人類が直面する脅威に対して国際社会が結束できるか、今まさに問われています。
(二村 伸 解説委員)
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