内戦が続くシリアで、アサド政権軍と反政府勢力を支援するトルコ軍との間の戦闘が激しくなっており、政府軍どうしの全面的な衝突を回避できるか、重大な局面を迎えています。出川解説委員です。
Q1:
アサド政権軍とトルコ軍が直接戦うと、紛争の構図が変わりますね。
A1:
その通りです。もし、政府軍どうしの全面的な戦闘に発展しますと、これまでの内戦の枠を超え、国どうしの戦争となります。
Q2:
両者の戦闘が激しくなったのはなぜですか。
A2:
焦点は、シリア北西部のイドリブ県とその周辺です。内戦は、アサド政権が、反政府勢力に対し、圧倒的な優勢を保っていますが、この地域は、反政府勢力に残された最後の拠点です。反政府勢力を支援するトルコが、駐留部隊を増強したのに対し、アサド政権軍は、後ろ盾のロシア軍とともに、激しい空爆を行っています。そして、トルコ軍の兵士50人以上が犠牲になったことを受けて、トルコのエルドアン大統領は「徹底的に報復する」として、今週、新たな軍事作戦を開始したのです。
Q3:
戦闘の激化で、どんな影響が出ていますか。
A3:
まず、イドリブ県一帯で、新たに100万人の国内避難民が発生しました。厳しい寒さの中、命を失う子どもたちも出ています。
次に、トルコ政府は、EU・ヨーロッパ連合との合意に基づいて国内にとどめてきたシリア難民などがヨーロッパに渡るのを黙認する姿勢に転じました。EU側に揺さぶりをかけ、シリア情勢の打開に向け、協力を引き出す狙いがあります。
これに対し、ヨーロッパ諸国は、大量の難民が押し寄せることを警戒し、国境を閉鎖するなどの措置をとっています。立ち往生した難民に犠牲者も出ていまして、再び「難民危機」が起きようとしています。
Q4:
シリアとトルコの全面衝突を防ぐ手立てはありますか。
A4:
国連のグテーレス事務総長は、「即時停戦」を呼び掛けていますが、カギを握るのは、アサド政権を支援するロシアです。プーチン大統領とエルドアン大統領が、あす5日、首脳会談を行う予定です。トルコ軍も、それまでは、大規模な攻撃を控える姿勢で、首脳会談で有効な打開策を見出すことができるかどうか、世界の目が注がれています。
(出川 展恒 解説委員)
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