「東京消防庁『救急搬送中止』に2つの理由」(ここに注目!)
2019年12月17日 (火)
堀家 春野 解説委員
東京消防庁は12月16日から希望しない患者について救急隊が心肺蘇生や病院への搬送を中止できるしくみをスタートしました。背景に2つの理由があります。
Q)救急隊が到着しても搬送しないというのはどういうことなんでしょうか。
A)はい。まず対象として想定されているのは高齢者です。がんや老衰など人生の最終段階にあって在宅で医療を受けている、そして事前にかかりつけ医や家族に心肺蘇生や延命治療を行わないという意思を示している人です。搬送しないのは救急隊がかかりつけ医に症状が想定外のものでないかや、本人が本当にこうした意思を示していたのかを確認できたケースに限るとしています。
Q)なぜこうしたしくみを導入したのでしょうか。
A)2つの理由のうちひとつは、「本人が望んでいないから」です。家族はそうした意思を知っていても、最期のときがきょうなのか1か月後なのかはわからず、容態が急変しあわてて救急車を呼ぶことがあります。救急隊が心肺蘇生を始めたときに本人の意思を思い出しやめてというケースが少なからずあります。そしてもう1つの理由はこうしたケースが増え現場で救急隊が困っている間に、救命が必要な他の患者の対応が後手に回ってしまうという懸念があるからなんです。
Q)東京以外の地域ではどうなっているのでしょうか。
A)全国の消防本部の8割以上が、家族に心肺蘇生を拒まれた経験がありますが、多くは対応方針を決めていません。東京消防庁には他の消防本部からの問い合わせが相次いでいて影響は少なくないと思います。
Q)本人の意思を尊重しようにも知らなければできませんよね。
A)望むような最期を迎えられるかどうかは、いざという時にどのような医療やケアを受けたいのか日ごろから考えて家族や医師と繰り返し話し合う、こうした取り組みが広がるかどうかにかかっています。そして、超高齢社会ではかかりつけ医の役割はますます大きくなります。在宅医療を担う、かかりつけ医をどう増やしていくのかも課題です。
(堀家 春野 解説委員)
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