EUの内閣にあたるヨーロッパ委員会の新しい体制が、12月1日に発足します。多くの課題を抱えた船出について二村解説委員です。
Q.女性が多いですね。
EUの閣僚ともいえる新しいヨーロッパ委員は、27人中女性が委員長も含めこれまでで最も多い12人に上っています。EUで最も強力な権限を持つ委員長は、ドイツのウルズラ・フォンデアライエン氏。7人の子どもの母親で、メルケル政権で国防相など閣僚を長く務め、首相の信頼が厚い人です。ヨーロッパ議会での新体制の承認に先立って新委員長は、環境対策とデジタル化への対応に力を入れる方針を示しました。
同じ12月1日にはヨーロッパ理事会、首脳会議の議長を務める、いわゆるEU大統領に、ベルギーの首相を務めていたシャルル・ミシェル氏が就任します。この体制で今後5年間EUの様々な問題に取り組むことになります。
Q.行く手には障害が多そうですね。
フォンデアライエン委員長は、「自国優先主義や各国の対立が続く不安定な世界で、多様な価値観を尊重する多国間主義の勝者としてEUは存在感を示すべきだ」と述べています。さっそく取り掛からなくてはならないのはイギリスの離脱問題です。
1月末までのEU離脱をめざすジョンソン政権は、今回委員を出すことも拒みました。イギリスとは離脱後も将来の関係に関する交渉が残っており、今後も対応に苦慮しそうです。
もう一つの難題はアメリカとの関係です。
Q.トランプ政権ですか。
トランプ政権は鉄鋼やアルミ製品に続いて、先月、EUのワインやチーズなどの農産物に25%の関税を上乗せする措置を発動しました。EUは対抗措置を検討していますが、トランプ政権はさらなる関税の引き上げを示唆しており、減速を始めたヨーロッパ経済の先行きに懸念が強まっています。また、EU内では難民政策などをめぐってハンガリーやポーランドなど旧東欧諸国がEUに反旗を翻し亀裂が深まっています。
イギリスが抜けた後の経済力や軍事力の低下も避けられないだけに、米中の二極化の傾向が強まる中で、EUが結束を固めて存在感を示すことができるか、道のりは決して平坦ではなさそうです。
(二村 伸 解説委員)
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