アメリカのトランプ政権は、先週、イスラエルがヨルダン川西岸地区で行ってきた入植活動を、「国際法違反とはみなさない」と表明し、パレスチナ側と国際社会の強い反発を呼んでいます。出川解説委員です。
Q1:
トランプ政権の表明、背景には何があるのでしょうか。
A1:
ヨルダン川西岸地区は、イスラエルが1967年の第3次中東戦争で占領し、その後、ユダヤ人入植地を建設してきました。これは国際法に違反し、中東和平の障害になるとしてきたアメリカ歴代政権の立場を、トランプ大統領は覆したのです。
トランプ大統領は、今、窮地に立たされているイスラエルのネタニヤフ首相に「救いの手」を差し伸べ、それによって、自らの大統領選挙での再選に結びつけようと考えているようです。
Q2:
それは、どういうことですか。
A2:
ネタニヤフ首相は、いくつかの汚職疑惑を抱え、イスラエルの検察当局は、先週、収賄などの罪で起訴すると発表しました。
ネタニヤフ氏は、政権の存続をかけて、今年4月と9月、議会選挙に打って出ましたが、いずれも組閣に失敗し、3度目の選挙が行われる可能性が高まっています。
強い逆風の選挙、ユダヤ人入植者など右派の支持を固めたいところです。
一方、トランプ大統領は、自らの支持層に、イスラエルを強く支持する「キリスト教福音派」が多く含まれており、対イラン政策などで緊密に連携してきたネタニヤフ氏を助けることが、自らの再選にプラスになると考えたようです。
Q3:
中東和平にはどんな影響がありますか。
A3:
中東和平交渉は、もう再開できないかもしれません。パレスチナ側は、ヨルダン川西岸の全域が、将来の独立国家の領土になるべきと主張してきました。入植活動が認められれば、いずれイスラエルに併合される恐れもあり、国家独立は不可能になるとして、激しく反発しています。
国連のグテーレス事務総長をはじめ、国際社会も、「入植活動は国際法への明白な違反」だと強い批判と懸念を表明しています。
大統領が出した決定や見解を、後の大統領が覆すのは非常に困難です。トランプ大統領、エルサレムへの大使館の移転などに続いて、また、取り返しのつかないことをしたと言わざるを得ません。
(出川 展恒 解説委員)
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