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「量子コンピューターは安全保障問題!?」(ここに注目!)

津屋 尚  解説委員

スーパーコンピューターをはるかに凌ぐとされる量子コンピューター。
将来への大きな可能性の一方で、安全保障上の問題も指摘されています。
津屋解説委員です。

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Q:2つのコンピューター、随分表情が違いますね。

スーパーコンピューターは汗だくですが、量子コンピューターは余裕しゃくしゃくです。グーグルの研究チームは先月、スーパーコンピューターでおよそ1万年かかる計算を量子コンピューターがわずか“3分20秒”で終わらせたという論文を発表しました。本格的な実用機の完成はまだまだ先の話とみられますが、完成すれば、永遠に近い時間がかかるような計算も短時間でできてしまうと言われています。

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Q:どんなことができるようになるのですか?

例えば、▽画期的な新薬の開発、▽AI・人工知能の飛躍的な能力向上など、様々な可能性があり、社会や産業を変革する技術として期待されています。
ただ、使い方次第では、“よからぬこと”もできてしまいます。

Q:といいますと?

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量子コンピューターは“暗号の解読” にも使われるかもしれません。「暗号」はいわば、“金庫”を守る大切な「鍵」。それが破られれば、金融取引や通信、個人情報など、社会を支える様々な“秘密”が読み取られる可能性があります。
もう一つの問題は、データとして保存された“国家機密”の暗号が解読される事態です。最初に 量子コンピューターによる暗号解読技術を完成させた国家は、他国の軍事や外交の極秘情報を独占的に手にすることも考えられます。
このため、アメリカや中国をはじめ多くの主要国は、量子コンピューターを安全保障問題と位置づけ、巨額の資金を投じ、国をあげて開発にしのぎを削っています。

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Q:日本の状況はどうなのでしょうか?

日本は、世界をリードする研究も行われてはいますが、国家の安全保障問題としての認識はうすいのが実情です。政府は、量子技術に関する初めての国家戦略の策定に今ようやくとりかかっています。暗号が解読されるリスクへの対策など、安全保障面に目を向けることも急務だと思います。

(津屋 尚 解説委員)


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