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「『アラブの春』再来? 激化する民衆デモ」(ここに注目!)

出川 展恒  解説委員

「イラスト解説・ここに注目!」です。中東のイラクとレバノンでは、それぞれ、大規模な反政府デモが拡がり、首相が辞任を表明する事態となっています。何が起きているのでしょうか。出川解説委員です。

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Q1:
まず、イラクでは、大勢の犠牲者が出ているようですね。

A1:
はい。大規模なデモは、先月1日に始まり、首都バグダッドをはじめ、全国各地に拡大しました。若者たちが、高い失業率、水や電気の不足、政治家たちの汚職に抗議して、政府の退陣を要求。これに対し、治安部隊が実弾も使って鎮圧を図ったため、これまでに250人以上が死亡し、1万人近くのけが人が出て、先週、アブドルマハディ首相が辞任する意向を表明しました。
一方、レバノンでも、財政難に苦しむ政府が、先月半ば、スマートフォンのSNSに課税する方針を打ち出したところ、これに抗議する若者たちのデモが全国に広がりました。先週、ハリリ首相が、混乱の責任をとって退陣すると表明しました。

Q2:
アラブ諸国で、民衆の抗議デモによって政権が倒れるというのは、以前にも起きていますね。

A2:
はい。8年前のいわゆる「アラブの春」です。その時と異なるのは、今回、イラクもレバノンも、長期独裁政権ではなく、民主的な選挙で選ばれた政権が、退陣を余儀なくされたことです。どちらの国も、異なる宗教と宗派、あるいは民族で構成され、激しい内戦を経験した苦い経験から、各勢力の間で政府のポストや権力を分配して、バランスを図ってきました。ところが、それぞれの勢力の指導者たちが「利権」を握り、「汚職」が蔓延し、行政サービスが行き渡らない「国民不在の政治」が続いているのです。

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Q3:
首相が辞めることで、事態は解決に向かうでしょうか。

A3:
いえ、事態収拾の見通しは立っていません。新たな政権ができるまでに何か月もかかるうえ、政治指導者たちが国民の暮らしを顧みないという問題の本質部分が放置されたままだからです。「機能不全に陥った政治」への民衆の怒りと不信感は根深く、政治の刷新を求めるデモは、簡単には収束しないでしょう。
南米のチリでも、今月予定されていた重要な国際会議が、大規模な反政府デモの影響で開催できなくなるなど、この現象、世界的な拡がりも見せています。

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(出川 展恒 解説委員)

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