「イラスト解説・ここに注目!」です。トルコ軍は、9日、内戦が続くシリア北部の国境地帯からクルド人勢力を排除するためとして、国境を越えて軍事作戦を始めました。その背景と影響について、出川解説委員です。
Q1:
トルコが、シリア北部への越境攻撃に踏み切ったのはなぜでしょうか。
A1:
トルコのエルドアン大統領が手にする地図をご覧ください。
シリアの北部一帯は、現在、シリアのクルド人組織が支配しています。彼らは、アメリカ軍の支援を受けながら、過激派組織ISと戦い、ほぼ壊滅させることに貢献し、自治権を主張しています。
エルドアン大統領は、シリアのクルド人組織は、分離独立を目指すトルコのクルド人組織とつながる「テロ組織」だとして、これを排除する機会を窺っていました。
そして、アメリカのトランプ大統領の対応が、越境攻撃の呼び水となりました。
Q2:
それは、どういうことでしょうか。
A2:
トランプ大統領は、ISとの戦いを共に戦ったクルド人組織を見捨てる形で、シリア北部からアメリカ軍を撤退させることを決めたのです。来年の大統領選挙を意識して、軍の撤退を急ぎたい思惑が働いたと見られます。この対応には、内外から強い批判があがっています。
エルドアン大統領は、クルド人組織を支援してきたアメリカ軍が撤退したのを見て、越境攻撃に踏み切りました。シリア側の国境沿いに、「安全地帯」と呼ぶ緩衝地帯を設け、そこに、トルコ国内で避難生活を送るシリア難民を移動させたいとしています。
Q3:
トルコの軍事作戦、どんな影響が出るでしょうか。
A3:
まず、クルド人組織は、徹底抗戦する構えです。戦闘に民間人が巻き込まれ、大勢の犠牲者や避難民が出ることが心配されます。
次に、クルド人組織が身柄を拘束してきた1万4000人を超えるISの戦闘員らが、戦闘の中、野放しになり、ISが復活する事態も懸念されます。
さらに、シリアのアサド大統領は、トルコが領土を侵害していると強く反発しています。ロシア、イラン、トルコの主導で進められている、内戦終結を目指す和平の動きにもブレーキがかかるでしょう。
トルコ軍の越境攻撃によって、すでに8年に及ぶシリアの内戦がいっそう複雑化し、この地域が、長期にわたって混乱に陥ることが懸念されます。
(出川 展恒 解説委員)
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