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「闇夜にカラスはいなかった!?」(ここに注目!)

髙橋 祐介  解説委員

アメリカのトランプ大統領は、いわゆるロシア疑惑に関与したのでしょうか?特別検察官として疑惑の捜査にあたったモラー氏が初めて議会で証言しました。髙橋解説委員です。

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 Q1)
けさのイラストは、モラー氏がトランプ大統領をモデルに絵を描いている?
A1)
ロバート・モラー氏が特別検察官として捜査を指揮したロシア疑惑をキャンバスに喩えてみました。3年前のアメリカ大統領選挙にロシアが干渉したとされる疑惑には、ポイントがふたつありました。ひとつは当時のトランプ陣営とロシアに“共謀関係”があったかなかったか?もうひとつは大統領が捜査を違法に阻む“司法妨害”があったかなかったか?モラー氏は、“共謀関係”については「認められなかった」つまりシロと結論づけた報告書の内容をくり返しました。その一方で、“司法妨害”について、「あなたはトランプ大統領の潔白を証明したのか」と問われると「ノー」とひと言で否定しました。「現職の大統領を刑事訴追することは出来ない」とする司法省の見解を踏襲し、いわばシロでもクロでもないグレーの回答でした。

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Q2)
ということは、トランプ大統領は退任後、訴追されることもあり得る?
A2)
モラー氏は少なくともその可能性を排除しませんでした。このため、野党・民主党の議員らは、にわかに色めき立ちました。このグレーの闇夜の絵の中に「きっと黒いカラスがいたはずだ」と言うのです。これに対して、与党・共和党は、疑惑を裏づける証拠は見つからなかったので、いわば「闇夜にカラスはいなかった」として、大統領はあくまで「シロサギのように潔白だ」と言うのです。

Q3)
今後の疑惑の真相究明はどうなる?
A3)
すでに捜査は終了しているので、今後の焦点は、民主党が議会で大統領の弾劾訴追に踏み切るかどうかです。ただ、下院で多数を握る民主党の指導部は、上院は共和党が多数を占めているため慎重です。この日のモラー証言でも、捜査報告書の内容を大きく超える材料は出てこなかったため、大統領をただちに弾劾に追い込むことは難しいでしょう。議会はまもなく長い夏休みに入ります。闇夜にカラスはいたのか?いなかったのか?ロシア疑惑は核心部分が不明なまま来年の大統領選挙に突入していく公算が大きそうです。

(髙橋 祐介 解説委員)


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