殺人など裁判員裁判の対象事件や検察の独自捜査事件で、取り調べのすべての過程で録音と録画を義務付ける「全面可視化」が6月1日からスタートします。
Q:取り調べを撮影したテープがあります。この録画や録音が義務付けられるんですね。
A:法律の施行は6月1日からですが、すでに「試み」として全国で始まっています。警察は対象事件のおよそ88%、検察は裁判員裁判の事件の98%で、すべての過程を録音録画しています。ですから、施行によって大きく変わる、ということではありません。
Q:録画した映像は何に使われるのですか。
A:もともとは、裁判所、検察、弁護士が、取り調べが適切かどうかを後から検証できるよう導入されたものです。特に弁護士から冤罪を防ぐためとして「全面可視化」が強く求められていました。
ただ、始まってみると、冤罪防止や検証とは別の使われ方もされるようになりました。
Q:どういう使われ方ですか。
A:検察が有罪を証明するための証拠として申請し、映像を法廷で上映するケースが出てきたんです。一般から選ばれた裁判員は、ほとんどが取り調べの様子を見たことはありません。加えて映像が裁判員に与えるインパクトは強く、映像が根拠になって、自白が信用できると判断されたケースもありました。
また、たとえすべてを録音録画しても、法廷で全部を上映することは難しい以上、どうしても映像は編集されます。そうなると弁護士からは「供述している部分だけの印象で、裁判員に誤解を与える恐れがある」という声も出てきます。
Q:そうすると、映像の取り扱いが、新たな課題になるわけですね。
A:今週月曜日には、いわゆる「布川事件」で違法な取り調べがあったことなどを理由に、国と県に賠償が命じる判決が言い渡されたばかりです。
今回の全過程の録音と録画は冤罪を防ぐためにも一歩前進です。ただ、録音録画した映像をどう活用するかという運用の検討は、裁判員にあたえる影響も考慮して、引き続き慎重に行ってほしいと思います。
(清永 聡 解説委員)
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