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「新時代のタイはどこへ」(ここに注目!)

二村 伸  解説委員

5年前のクーデター以降、軍政の支配が続くタイで8日、3月に行われた総選挙の結果が発表され、軍の後押しを受ける政党を中心に新政権づくりが進められる可能性が高まりました。

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Q.議席数だけ見るとタクシン元首相を支持する政党の勝利のようにも見えますが、そうではないのですか。

タクシン元首相が強い影響力を持つかつての与党「タイ貢献党」が136議席を獲得して下院の第一党になったのですが、過半数には達しませんでした。一方、軍が後押しする「国民国家の力党」は115席で、第二党ながらプラユット暫定首相が民政復帰後も続投する可能性が高いと見られます。

Q.どういうことですか。

首相は上下両院の全議員の投票によって選ばれます。上院は250人全員を事実上軍が任命するため、国民国家の力党の首相候補プラユット氏が、首相の座に最も近いのです。ただ、単独では過半数に届かないため、今後小政党との連立がカギとなります。

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Q.軍に有利なのですね。

圧倒的に軍が有利です。普通に選挙を行えば、クーデターで失脚後も国民の人気が高いタクシン元首相を支持する政党が勝利する可能性が高いため、軍部は憲法を改正した上、タクシン派が単独で過半数にならないように選挙制度も変えました。ところが比例代表の議席の配分をめぐって混乱が生じ、これまで結果の発表が遅れていました。下院の半数にわずかに届かなかったタイ貢献党など反軍政の政党は、議席の配分について異議を申し立てるものと見られます。

Q.新政権発足はすんなりといきそうですか。

連立をめぐる各党の駆け引きが続きそうですが、新政権発足後も大きな試練が待ち構えています。というのは予算などの重要な法案の審議は下院だけで行われるため、軍主導の政府案が否決される可能性もあります。そうなると政権の運営はおぼつかなくなります。政治を安定させ民主化と国民の和解を実現できるか、新政権の大きな課題です。

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タイでは今月ワチラロンコン国王の戴冠式が行われ、その直前には国王の4度目の結婚が発表されました。新国王のもとで新しい時代に入ったタイはどこへ向かうのか、多数の企業が進出し歴史的にも関係の深い日本としてもその行方に目が離せません。

(二村 伸 解説委員)


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