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「米軍撤退は? 混迷するシリア」(ここに注目!)

出川 展恒  解説委員

「イラスト解説、ここに注目!」です。
アメリカのトランプ大統領は、先月、シリアから軍を撤退させる方針を表明しましたが、内外で反対意見や反発が相次いでいて、撤退の先行きが不透明になっています。出川解説委員です。

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Q1:
トランプ大統領による撤退方針と、これに反対する意見、どういうものですか。

A1:
トランプ大統領は、先月、シリア北部に駐留させていたおよそ2000人の軍を「完全かつ速やかに」撤退させると表明しました。これに、マティス国防長官が反対して辞任し、議会でも、与野党を問わず、反対意見や批判の声があがりました。

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▼シリアから撤退すれば、過激派組織IS・イスラミックステートの復活を招きかねないこと。▼アメリカに協力してISと戦ってきた現地のクルド人勢力を見捨てることになること。これらが理由です。
シリアと国境を接するトルコは、アメリカの同盟国ですが、クルド人勢力を、自国の安全を脅かす敵と見ており、大規模な越境攻撃に踏み切る構えを示していました。トランプ政権は、両者の「板ばさみ」に置かれ、軌道修正を余儀なくされました。

Q2:
軌道修正ですか。

A2:
はい。トランプ大統領、今は、「撤退は時間をかけて行う」と述べています。また、今週、トルコを訪問したボルトン大統領補佐官は、「アメリカに協力してきたクルド人勢力の安全が確保されることが、撤退の条件だ」と発言しました。

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これに対し、トルコのエルドアン大統領は、8日、「ボルトン氏の発言は受け入れられない」と猛反発しました。そして、「クルド人勢力も、ISと同様、テロ組織だ」と断じ、いったんは延期を表明したシリアへの越境攻撃に踏み切ると警告しています。

Q3:
事態は緊迫しているわけですね。

A3:
はい。トランプ大統領が、適切な状況判断や戦略を欠いたまま、シリアからの撤退を表明したことで、内戦の混乱に拍車がかかった形です。

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もし、クルド人勢力に配慮して、撤退を先送りすれば、トルコによるシリアへの越境攻撃は避けられません。逆に、撤退を急げば、ISとの戦いで協力してきたクルド人勢力が孤立無援になります。
クルド人勢力は、生き残るため、敵対していたアサド政権に助けを求めるなど、内戦の構図はいっそう複雑になっていまして、内戦終結への道筋が全く見えません。

(出川 展恒 解説委員)

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