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「『毒薬条項』悪魔は細部に宿る!?」(ここに注目!)

髙橋 祐介  解説委員

アメリカがメキシコやカナダと合意した新たな自由貿易協定に、中国との自由貿易協定を厳しく制限する条項が盛り込まれ、今後の日米交渉にも影響が出かねないとして、注目を集めています。髙橋解説委員です。

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Q1)
“毒薬条項”って、恐ろしい響きのタイトルですが、いったい何のこと?
A1)
ハロウィンも近いのでイラストもコスチュームにしてみました。毒リンゴを食べたら死んでしまいます。同じように“毒薬条項”とは、その条項を発動すれば、契約そのものをご破算にすることが出来るというものです。主に企業の敵対的な買収を防ぐための対抗策などにも使われてきた言葉です。
アメリカは、NAFTA=北米自由貿易協定の見直しを求めて交渉した結果、今月までにメキシコやカナダと新たな合意を結びました。アメリカ通商代表部が公表したその条文案の中に、こんな文言が盛り込まれていました。3か国のうち1か国が「“市場経済でない国”と自由貿易協定を発効させれば」他の2か国は「この協定を“打ち切ることも出来る”」というのです。

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Q2)
“市場経済でない国”って、中国のこと?
A2)
ずばり中国です。現に、ロス商務長官は、中国による知的財産権の侵害など、不公正な慣行を正当化するような“抜け道”を塞ぐのが目的だと言っています。要は「アメリカの知らないところでアメリカの意に反する合意を中国と結ぶな!」そう釘を刺したかたちです。当然中国は反発しています。そして問題は、これから日本と交渉する貿易協定にも同じような条項を取り入れたいと、トランプ政権が考えていることです。

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Q3)
仮に日米協定にも、こうした“毒薬条項”が盛り込まれたら、どうなる?
A3)
いま日本が中国を含めて交渉している日中韓FTA=自由貿易協定やRCEP=東アジア包括的経済連携協定にも影響が出かねません。最悪の場合、日本企業は、アメリカ市場をとるか?それとも中国市場をとるか?いわば二者択一を迫られてしまうかも知れません。
そうした厳しい事態に追い込まれないためにも、“悪魔は細部に宿る”そうアメリカの格言に言うとおり、今後の日米交渉には、細心の注意が必要となるでしょう。

(髙橋 祐介 解説委員)


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