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「米朝首脳会談 中国の思惑は」(ここに注目!)

加藤 青延  解説委員

(キャスター)
アメリカのトランプ大統領と、北朝鮮の金正恩委員長が、きのうシンガポールで史上初の米朝首脳会談を行い、共同声明に署名しました。加藤解説委員に聞きます。

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加藤さん、この首脳会談の結果について、北朝鮮に大きな影響力を持つ中国はどう受けとめているのでしょうか?

(加藤)
米朝両国の首脳が、共同声明の中で、「数十年来の緊張と敵対関係を乗り越え、新しい未来を切り開く」と確認しあったことに、中国は満足していると思います。
実は、この問題で中国が最も恐れてきたことは、トランプ大統領が、北朝鮮に対して武力行使に踏み切るシナリオでした。実際、去年春、習近平国家主席がアメリカを訪れ、トランプ大統領と首脳会談を行っていた最中に、トランプ大統領は、シリアに対して「化学兵器を使った」として大規模な巡航ミサイル攻撃を行いました。もし、同じような攻撃を、北朝鮮の核施設などに行えば、北朝鮮が韓国などに報復攻撃を行い、朝鮮半島が戦争の炎に包まれかねません。そうなれば、中国の安全保障が脅かされるだけでなく、北朝鮮と国境を接する中国にも大量の避難民がなだれこみ、中国経済にも深刻な打撃を受けかねないという危機感が中国側にはありました。
そこで中国は「いかにアメリカの武力行使を阻止するか」を最大の外交課題として、この一年あまり、陰ながら米朝首脳間の対話の橋渡しをしてきたと私は見ています。

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(キャスター)
では、今回の米朝首脳会談の結果は、中国の思惑通りになったといえるでしょうか?

(加藤)
一応、思惑通りの方向に進み始めたと見ていると思います。米朝両国が、今回の首脳会談を受けて、今後、朝鮮戦争の完全終結に向けて動きを加速すれば、当時、義勇軍を大挙派遣する形で朝鮮戦争に参加した中国も「当事国」として、そのプロセスに深く関与し、影響力を行使することができると考えているでしょう。
過去5年間、ぎくしゃくしていた中朝関係がここに来て、にわかによりを戻し、中国が北朝鮮の後ろ盾としての存在感を増してきたのも、そのためだと思います。

(キャスター)
ただ、中国は、朝鮮戦争当時戦ったアメリカや韓国とはすでに国交を正常化し、今や経済交流もかなり活発ですが、それでも戦争を終結させることに中国のメリットはあるのでしょうか。

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(加藤)
朝鮮半島の安全保障を巡って、中国が最も強く反発してきたのが、実は、アメリカが近年韓国に配備してきた「サード」と呼ばれる迎撃システムです。北朝鮮の弾道ミサイルによる対米攻撃を警戒・阻止するというのが配備の理由でした。しかし中国は、本当の目的は北朝鮮ではなく、高性能なレーダーで中国国内の軍の動きを探ることではないかと疑い、即時撤去を求めてきました。実際、サードが持つ高性能レーダーによって、中国の上空も丸見えになるようです。これに中国政府は大反発し、韓国の関係が一気に冷え込む事態にもなっていきました。ところが、もし朝鮮戦争が終結し、北朝鮮が核やミサイルを完全に放棄すれば、もはやアメリカがサードを韓国に配備しておく口実はなくなるはずだと中国は踏んでいると思います。私は中国にとっての最大のメリットというなら、そのあたりが一番大きいのではないかと見ています。

(加藤 青延 解説委員)

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