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「シリア化学兵器疑惑 見えない真相」(ここに注目!)

別府 正一郎  解説委員

シリアで、化学兵器の使用が疑われる攻撃で多数の死者が出ていることをめぐって、日本時間の10日朝、国連の安全保障理事会の緊急会合が始まりました。

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Q イラストを見ると、大きな「?」が3つもありますが?

A それは、分からないことが多いからです。
そもそも、安保理で問題になっている攻撃にしても誰が行ったのかはっきりしません。反政府勢力側はアサド政権を非難しています。一方、アサド政権は否定しています。攻撃があった地区は反政府勢力の拠点でしたが、政府側は地上部隊も投入し大部分を制圧しています。政府側は、戦況が有利なのだから化学兵器を使う理由はなく、攻撃は反政府威力の自作自演だとしています。

Q しかし、トランプ大統領はアサド大統領を非難していますよね?

A 去年、化学兵器を使ったと疑われる別の攻撃があった際もトランプ政権はアサド政権の仕業だと断定してミサイルを撃ち込み、今度も軍事攻撃の可能性を排除しないとしていて、緊張が高まっています。しかし、何を根拠にアサド政権の仕業だと断定しているのかはっきりしません。
こうした中、シリアの国営通信は9日、中部にある空軍基地にミサイルが撃ち込まれ、イスラエルによる攻撃だったと伝えました。一方で、イスラエルは肯定も否定もしておらず、これもはっきりしません。ただ、仮にイスラエルの攻撃だとしたら、紛争のいっそうの複雑化を意味し、懸念される事態です。

Q 国際社会はどうするのでしょうか?

A ニューヨークの国連本部で開かれている安保理の緊急会合では、化学兵器を使ったのはアサド政権だとするアメリカと、証拠がないとするロシアが激しく対立しました。双方が折り合うのは難しく、国際社会の行動は見えてきません。
このように分からないことが多いのですが、ひとつだけはっきりしていることはあります。

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Q 何でしょうか?

A それは、シリアの人たちの苦しみが深まっている、ということです。シリアは、今や、紛争当事者の対立に加えて、それぞれを支援する外国や勢力が入り込んで力を誇示する場になってしまいました。
内戦を止めるためは、こうした国や勢力が介入をやめることが必要で、安保理各国を始め国際社会はその方向で歩み寄ることが何よりも求められています。

(別府 正一郎 解説委員)


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