スタジオパーク 「日本が支援 カンボジア民法」2012年01月13日 (金)

西川 龍一  解説委員

【前説】東南アジアのカンボジアで、去年の暮れ、民法が施行されました。この民法、日本の法律家らによる支援で作られたということです。西川解説委員です。

Q.日本とカンボジア、そんなところでつながっていたんですね?

A.そうですね。カンボジアというと、世界遺産のアンコールワットに、日本を始め、大勢の観光客が訪れますが、1970年代に起きたポル・ポト派による大量虐殺や長く続いた内戦など、マイナスのイメージも強いかと思います。
カンボジアは、こちら、東南アジアのインドシナ半島、ベトナム、ラオス、タイに隣接する国です。国連のPKO・平和維持活動に日本が初めて参加したのが内戦後のカンボジアで行われたPKOでした。1992年から翌年にかけて自衛隊や警察官などが派遣されて停戦の監視や警察活動、選挙監視活動などを行いました。業務中の警察官が襲撃されて1人が死亡するという事件を覚えている方も多いと思います。こうした活動の成果もあって、1993年に新しい憲法が制定され、今の体制を取り戻した形です。

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Q.民法が日本の支援で施行されたということですが、カンボジアには今までなかったんですか?

A.もともと整備されていた法律は、ポル・ポト政権時代に廃止され、基本となる法律は長らく手つかずの状態でした。国の治安に関わる刑法がまず制定され、次いで暮らしに関わる民法が整備されたんです。民法というのは、普段はほとんどの人が意識することはないと思いますが、売買などの契約や婚姻や親子関係、相続など日常生活に関することを定めた基本法です。
 
Q.それがないことで、どんなことが起きていたのでしょう?

A.たとえば遺産相続がスムーズに進まないといったことや、土地の権利関係が混乱して突然立ち退きを求められてトラブルになるといった問題が頻繁に起きていたということです。
日本の民法学者や大学教授らが中心となって、カンボジアの民法の起草を支援する作業が始まったのは1999年。これまでなかったものだけに、関連法の整備や国民への周知にも時間がかかり、12年がかりで去年ようやく施行にこぎ着けました。
先月21日、カンボジアのプノンペンにある首相府で記念式典が行われました。日本の黒木雅文大使とともに、民法の起草作業に中心となってあたった名古屋大学名誉教授の森島昭夫さんらが出席し、カンボジア側から友好勲章を贈られました。

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Q.なぜ日本がカンボジアの民法起草に関わることになったのですか?

A.日本が1990年代にカンボジアの隣のベトナムで最初に行った法整備支援が大きなきっかけだと森島さんは言います。途上国への法整備支援は、ほかの先進諸国によっても行われているということですが、そのほとんどが、支援する国の法律をほぼそのまま翻訳して、いわば法律を移植するような形で行われてきたため、実態にあわないといったことがしばしば起きてきたということです。そこで日本は、事前に支援を受ける国の司法関係者を日本に招いて研修を行ったり、現地に専門家を派遣したりしてどんな法整備が求められているのかを検討しながら法律を整備する方式を取りました。カンボジア側がこうした日本の方式を高く評価したというわけです。
 
Q.具体的にはどういう方法が取られたのですか?

A.今回のカンボジア民法の起草作業では、▽法律は、最初からカンボジアの言葉、クメール語で作ること、▽作業には、日本の民法学者グループに加えてカンボジアの裁判官や弁護士などが研修を受けながら加わり、人材育成も進めながら行われました。こちらがクメール語で完成した法典ですが、条文は日本の民法より300近く多い1305条まであります。民事訴訟法も整備されました。
たとえば日本の民法では、結婚している夫婦の子とそうでない子の場合、相続に差がありますが、これを同等に扱ったり、女性の再婚が可能になるまでの期間を短く規定したりと現地の実状にあった制度が盛り込まれました。

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Q.カンボジアの人たちにとっては、恩恵は大きいようですが、日本側にとって、こうした支援にメリットがあるのですか?

A.新たな国際貢献策としてのメリットです。ODA・政府開発援助で、日本はかつて世界一の援助国でした。ところが、1997年から14年連続で予算の削減が続いていて、2007年には、5位にまで後退しています。ODAと言うと、道路や橋などのインフラ整備という印象が強いのですが、法整備支援というソフト面の援助に重点を置こうという考え方があります。厳しい経済状況が続く中で、ODA予算の増額は難しい中、わずかな予算でも効果的な国際貢献策につながるというメリットがあるというわけです。

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Q.新たな国際貢献策、ほかにも広がりそうですか?

A.法整備支援は、JICA・国際協力機構が中心となって、カンボジアに続いて、ラオスやウズベキスタンなどアジアの国々で行われています。元々、日本の法律自体が、明治時代に西欧諸国の法制度をミックスしながら近代的な法制度を整備して根付かせてきたという歴史を持つだけに、途上国の実状にあわせた形での法整備支援は、日本にとって得意分野と言えます。アジアでの存在感を高めるためにも、カンボジアなどでの経験を生かして、現地の人たちに実のある国際貢献を続けて欲しいと思います。