時論公論 「暴力団排除条例 全国で施行に」2011年09月30日 (金)

渥美 哲  解説委員

企業などに暴力団への利益供与などを禁じる暴力団排除条例が、あす(10月1日)、東京都と沖縄県でも施行され、すべての都道府県で実施されることになります。全国で暴力団排除条例の網がかかることで、警察は、暴力団の資金源を断ち、暴力団を壊滅させるチャンスと位置づけています。
今夜は、暴力団排除条例の全国での施行によって、大きな節目を迎える暴力団対策の現状と課題について考えます。

j110930_0.jpgのサムネイル画像

 

 

 

 

 

 

 

まず、暴力団排除条例とはどんなものかをみてみます。
社会全体で暴力団排除を進めることが目的で、地方公共団体や警察、弁護士会などの関係機関、そして企業や市民が一体になって、暴力団の排除に取り組むことを定めています。
具体的には様々な規定がありますが、最も大きなポイントは、民間の事業者に対して、暴力団への利益供与を禁止していることです。

j110930_1.jpg

 

 

 

 

 

 

 

あす施行される東京都の暴力団排除条例の例でみますと、「暴力団と交際しない」ことを基本理念の一つに掲げ、事業者が、「暴力団の活動を助長する目的」で、暴力団員などに利益供与をすることを禁止しています。
違反した場合には、公安委員会が是正するよう勧告し、従わない場合は事業者名がインターネット上などで公表されます。
また、「暴力団の威力を利用する目的」での利益供与、たとえば、この絵のように、住民の追い出しなどを依頼して金を渡すなどした事業者については、勧告や公表だけでなく、再発防止を命令することができ、命令に違反した場合は、懲役1年以下、または罰金50万円以下の罰則が適用されます。

j110930_2.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

これまで制定されている暴力団排除条例の多くは、こうした暴力団への利益供与の禁止のほか、公共工事からの排除や、学校周辺での暴力団事務所の開設の禁止、暴力団事務所に利用されることを知った上での不動産取引の禁止などを規定しています。

j110930_3.jpg

 

 

 

 

 

 

 

こうした暴力団排除条例は、福岡県などを手始めにおととしから制定する都道府県が相次ぎ、条例に基づく勧告などがこれまでに31件行われています。

たとえば、愛知県で、郵便局長が、近所に事務所がある暴力団員に駐車場を無料で貸していたとして勧告を受けました。また、福岡県で、霊園を経営していた事業者が、暴力団の会長が実質的に経営する会社に霊園の管理などを委託し現金を渡していたとして勧告を受けました。さらに、福井県では、飲食店の経営者が暴力団員に、縄張りの中で営業することを認める代わりに要求する「みかじめ料」を支払っていたとして、勧告を受けています。
これらの人たちは、「以前からのつきあいがあって断れなかった」とか、「最初は暴力団にトラブルを解決してもらうために支払いを始めた」などと話しているということです。

j110930_4.jpg

 

 

 

 

 

 

 

このようなこれまで勧告を受けた事業者は、いずれも利益供与などをやめたため、名称が公表されたケースはまだありません。

この暴力団排除条例、あす、東京都と沖縄県でも施行され、全国のすべての都道府県で実施されることになります。
平成4年に施行された暴力団対策法が、暴力団員への規制なのに対して、暴力団排除条例は、企業や市民などに、暴力団と関係を断ち、排除することを求めています。
暴力団は、暴力団対策法の施行後も、全国で8万人前後の勢力を維持しています。
さらに、巧みに組織の実態を隠し、資金を集める活動も潜在化させ、多様になっています。
警察の取締りや暴力団対策法の運用だけでは、暴力団を壊滅させることができない中で、各地での暴力団の活動状況など地域の特性を踏まえた暴力団排除条例が制定されるようになったのです。
すべての企業や市民などに対して、暴力団と関係をもったり取引をしたりしてはならないという自覚を促すもので、そのことが社会の中で徹底されれば、暴力団の壊滅に向けて大きな力になるといえます。
しかし、そのためには、いくつもの課題があります。

課題の一つは、暴力団排除に反発した、暴力団によるとみられる事件が多発していることです。暴力団排除条例をいち早く制定し、取り組みを進めてきた福岡県などで、こうした事件が相次いでいます。

(VTR)たとえば、今年3月、福岡市で、九州電力の会長の自宅で、車庫の一部が手榴弾とみられる爆発物で壊されたのに続いて、大手ガス会社・西部ガスの社長の自宅でも手榴弾が見つかりました。警察は、いずれも、北九州市にある暴力団が暴力団排除などに反発した犯行とみています。
また、福岡県では、暴力団追放運動を行っている自治会長の自宅に拳銃が撃ち込まれる事件や、暴力団排除を進めている大手建設会社の事務所で暴力団員とみられる男が拳銃を発砲し、社員にけがをさせる事件などが相次いでいます。

暴力団排除を進めていくためには、こうした排除に取り組む人々や企業を警察が守り、保護することの徹底が不可欠です。
また、こうした事件について、警察が犯人を逮捕し、事件を解決することがぜひ必要です。しかし、さきほど述べた福岡県での事件は、いずれも未解決のままで、警察にとって大きな課題になっています。

j110930_5_1.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

暴力団排除条例の運用にあたっての課題もあります。
どこまでが利益供与にあたるかなどが、条文に具体的に書かれておらず、企業や商店などに戸惑いがあるということです。
これについては、暴力団との取引の態様が様々であるため、一つ一つを明文化することはできないという事情があります。
今後、警察が、違反の実例を示すなどして内容の周知を徹底するとともに、条例を適用して勧告などを行う具体的な事例を積み重ねて、それを企業などにわかりやすく説明する必要があります。

j110930_5_2.jpgのサムネイル画像

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに、「取引などの相手が暴力団なのかどうかわからない」という戸惑いもあります。
暴力団との関係を遮断しようという企業などに対して、警察が暴力団についての情報提供を的確に行うことを徹底する必要があります。

j110930_5_3.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

こうした課題を解決し、暴力団排除条例を実効力のあるものにしていくことが求められています。

今、この暴力団排除条例の制定とともに、社会の各界で、暴力団を排除する様々な取り組みが行われています。
国や地方公共団体では、公共工事などあらゆる契約からの暴力団排除が進められています。
また、民間では、たとえば銀行業界が、融資や預金口座の開設などの取引から、暴力団員や暴力団と密接に交際している人物などを排除したり、日本証券業協会が会員各社に対して、取引約款などへの暴力団排除条項の導入などを義務づけたりしています。
さらに、プロスポーツの世界でも、日本相撲協会や日本野球機構が、「暴力団の排除宣言」を行っています。

j110930_6.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

こうした各界での暴力団排除の取り組みを真剣に進めていくとともに、ほかの分野にも広げていくことが必要です。
先月、タレントの島田紳助さんが暴力団幹部との親密な関係を理由にして芸能活動から引退しました。芸能界でも、暴力団との関係を遮断していく取り組みが求められています。

暴力団は、組織の威力を背景にして、暴力的な要求行為などを行うとともに、様々な犯罪を行って生業を得ている、反社会的な集団です。
社会全体から暴力団を閉め出していくために、あすから全国で施行されることになる暴力団排除条例を、的確に運用し、成果をあげていくことが必要です。
そのためには、これまで暴力団とのつきあいやしがらみなどを抱えてきた企業や市民も、暴力団を社会悪として捉えなおし、暴力団と交際しない、利用もしないし金も出さないということを、徹底する必要があります。

社会が一体になっての暴力団排除を進められるかどうか。そして、暴力団に対する「社会の包囲網」を強固なものにしていけるかどうか。
国や自治体、警察などとともに、企業や市民、我々一人ひとりに問われています。

(渥美 哲 解説委員)