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時論公論 「新局面のユーロ危機」2011年07月22日 (金)
百瀬 好道 解説委員
ヨーロッパの信用不安が再び深刻化する中で、ユーロ圏の緊急首脳会議が21日開かれました。首脳会議では、財政難のギリシャに対して民間の協力も得て18兆円規模の追加的な支援を行うことを柱にした安定化対策が合意されました。長引くユーロ危機を今度こそ封じ込めることができるのか。今夜の時論公論は、首脳会議で決まった対策を検証しながら、ユーロ危機のゆくえを考えます。
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ユーロ圏17カ国の首脳会議が緊急に開かれたのは、ギリシャの財政危機に端を発したユーロ危機が極めて深刻な局面を迎えたからです。一つには、去年金融支援を受けたものの再び資金繰りが苦しくなったギリシャに対する追加支援が、2ヶ月近くも議論しながら一向にまとまらず紛糾したことがあります。その結果ユーロ圏への失望から、スペインやイタリアの国債が大量に売られ、危機がギリシャやポルトガルなど周辺国から中核国にまで広がる様相を見せ始めました。
アメリカやIMFも本気で心配し始め、オバマ大統領は首脳会議を前にドイツのメルケル首相に直接電話をして、迅速に対応しないと世界経済に重大な影響を与えると警告しました。ユーロ圏諸国は「第2のリーマンショック」を防ぐためにも、問題の先送りが許されない立場に追い込まれました。
日本にとっても対岸の火事ではありませんでした。ユーロ危機に加えてアメリカでも財政赤字が政治問題化したこともあって急激な円高が進みました。大震災からの復旧・復興の途上にある日本にとって、円高はその足枷になりかねないからです。
では首脳会議会で合意されたポイントを整理します。会議の焦点は、ギリシャに対する包括的な追加支援策が打ち出せるか。スペインやイタリアへの危機の波及を食い止める予防策が示せるかという点でした。
まず、ギリシャへの追加支援については、向こう3年間で総額1590億ユーロ、日本円で18兆円近い金融支援を行う。このうち3分の2はユーロ圏とIMFが融資します。
またギリシャ国債を保有する主な銀行や保険会社などが、手持ちの国債を自主的に新しい国債に借り替えたり、交換したりする事で500億ユーロを負担するとしています。
次に危機の波及の防止では、去年作られた金融安定化基金の機能を強化する事になりました。これまでは資金繰りに行き詰った場合だけしか認められなかった融資を、もっと前の段階でも認めます。資本不足になった銀行に資本を注入したり、債務の削減につながるといわれる自国の国債を市場で買い戻したりする資金源として活用できるようにします。
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首脳会議で大規模なギリシャへの支援が決まったことで、ギリシャがこの先、満期を迎える国債の償還で資金繰りに困ることはなさそうです。このため、首脳会議後のマーケットの動きをみますと、ユーロは円やドルに対して買われ、ギリシャやスペイン、イタリアの国債も値上がりして、取り敢えずは落ち着きを取り戻した形です。
これで今度こそ危機を封じ込めることができるのでしょうか。まだ先行きが見極めにくい要素もあって楽観は禁物だと思います。
問題の一つは、銀行や保険会社など民間の投資家を支援に関与させる事にはリスクが伴うことです。この対策は、税金による外国の借金の尻拭いや銀行救済につながる支援に対して世論の反発が強いドイツやオランダが強く求めていたものです。しかし民間の投資家に負担を求める事は、本来手にするはずだった利益が損なわれるという理由で格付け会社からギリシャは「債務不履行」だと判断され金融市場が混乱する恐れがあるのです。しかし首脳会議では、たとえ債務不履行と判定されても、一部のギリシャ国債に限られるので、影響は限定的だと判断して、ドイツやオランダの意向に沿う決断をしたものと見られます。
ただ部分的とはいえ先進国が、債務不履行に陥るのは極めて異例です。その余波で、同じ様に支援を受けているアイルランドやポルトガルの国債が値下がりしたり、格付けが引き下げられたりする可能性もあるとみるエコノミストもいます。ユーロ圏の思惑通りに事が運ぶのかどうか、市場の動向には注意が必要だと思います。
次に、金融安定化基金の機能の強化はこれで十分なのかという問題です。手遅れにならない前に加盟国が基金から融資を受けられるようにする事は、イタリアやスペインといった中核国への危機の連鎖を防ぐ効果は期待できると思います。それに銀行への資本注入や国債の買戻しのために基金のお金が活用できるのは、ギリシャのように銀行システムが脆弱で巨額の借金を抱える国にとっては朗報です。先程説明したように、ギリシャが基金からお金を借りて、大きく値下がりしている国債の買戻しなどを行えば、今GDPの150%に近いギリシャの借金は20%以上減ることになるという試算もあります。
しかし基金の機能は強化しながら、融資できる資金規模はこれまでと変わりません。IMFやヨーロッパのエコノミストの多くは、機能の強化と同時に資金規模も思い切って拡大すべきだ主張しています。ポルトガルやアイルランドでも追加支援が必要となったり、万一スペインやイタリアが融資を求めてきたりした場合、今のままではとても対応できないというのがその理由です。さらに基金の機能強化にはEUのルールの変更と加盟国の議会の承認が必要で、ギリシャなどへの支援に批判的な国では強い抵抗も予想されます。
そして何よりも問題なのは、追加支援を受けるギリシャの財政再建が今度こそ着実に進むのかという点です。金利の引き下げや国債の返済の繰り延べで一息つけるとはいえ、賃金や年金はカット、消費税も23%と4%も引き上げられ、失業率は16%と国民の暮らしは限界に近づいています。緊縮政策で景気が冷え込んで税収も落ち込み、赤字の削減が計画通り進まないジレンマに陥っています。観光以外目だった産業が少ない点では、ポルトガルも事情が似ています。財政再建と経済成長を両立させるという、難しい課題に挑まなければならず、ユーロ圏やEUのバックアップが必要になるかもしれません。
ユーロ圏諸国は、世界や市場から急き立てられて、ようやくユーロ危機への答えを出しました。ここまで対応が遅れたのは、なんとしてもユーロ体制を守ろうという強い意志が、政治リーダーシップたちに欠けているのが原因だと思われてなりません。金融安定化基金の機能強化は以前にも検討されたものですし、ギリシャ支援への民間投資家の関与についての議論をみても、実は自分達の負担をできるだけ少なくして国民の批判をかわしたいというのが本音です。ユーロ導入やヨーロッパ統合の立役者、ドイツのコール元首相は「今のヨーロッパの政治家たちは、これまで築き上げたヨーロッパを破壊しようとしている」と嘆いたといわれます。EUやユーロを支えているのは、統合以外ヨーロッパが生き残る道はないという各国の信頼関係に基づいた連帯です。今後、対策が具体化される中で、政治的な結束を維持し強化する事、それが危機を再燃させないための最低条件だと思います。
(百瀬好道 解説委員)
