<< 前の記事 | アーカイブス トップへ | 次の記事 >>
時論公論 「原発事故・新工程表の意味」2011年07月19日 (火)
谷田部 雅嗣 解説委員
こんばんは、ニュース解説、時論公論です。
政府と東京電力は昨夜、原発事故の収束に向けた新しい工程表を公表しました。
工程表はどのように変わったのか。収束への見通しも含めて考えてみたいと思います。
![]()
新しい工程表は、今月17日が期限とされてきたステップ1がほぼ達成できたとして、ステップ2を見直した形で発表されました。
東京電力が福島第一原子力発電所の事故の収束に向けた工程表を当面の取り組みをステップ1とステップ2の2つの段階に分けて発表したのが3か月前の4月17日でした。
途中、取り組みの進捗状況や、明らかになってきた原発内部の状態などに合わせて、修正が加えられ、ステップ1が進められました。
しかし、ステップ1の最大の目標である原子炉の安定的な冷却は必ずしも十分といえる状況ではありません。
取り組みの中心である放射能で汚染された水の浄化処理施設ではトラブルが相次いでおり、不安定な状況が続いています。
積み残した課題のある中で、次の段階を示す工程表が発表されました。
【新工程表のポイント】
これまでの工程表から変更された部分も含めて見ていきます。
取り組みの主だった目標は共通で、原子炉の冷却と原発周辺への影響を抑えることです。
周辺への影響を抑えるためには、溜まっている汚染水の処理。
原発周辺の地下水への汚染防止。
放射性物質放出を抑えることなどがあります。
【たよりは循環注水冷却システム】
最大の課題は新工程表でも原子炉の冷却です。
原発の本来の冷却機能を復活させることは難しく、いくつかの冷却方法が考えられてきました。
ようやく決め手となったのは、先月設置され、稼動した循環注水冷却装置です。
循環注水冷却装置はアメリカ、フランス、日本の装置を組み合わせた複雑な仕組みです。
![]()
現状を見るために3号機の原子炉圧力容器の底の部分の温度データを見てみます。
![]()
事故当初は300℃を越え、その後も温度が上がったり下がったりする不安定な状態が続いてきました。
循環注水システムが稼動した前後から、変化が少なくなり、現在は100℃程度となっています。
1号機、2号機でも同じような状況になっており、政府と東京電力はステップ1が目標とした、原子炉の安定的な冷却が達成されたと評価しています。
昨夜発表された、新しいステップ2では、この循環注水冷却装置を補強し、冷却を続け、100℃以下の「冷温停止状態」に導くとしています。
![]()
この装置は放射性物質で高濃度に汚染された水の処理も同時に行います。
事故の起きた後、原子炉を冷やすために外部から水を注入してきました。
ところが、この水が原子炉の外に漏れ、原子炉のある建物やタービンのある建物の地下たまりました。
冷却を続ければ続けるほど汚染された水が増えるので注入する冷却水の量が限られていました。
循環注水冷却装置は、この放射性物質で汚染された水を浄化し、一部を冷却水として利用しようというものです。
汚染水は原子炉やタービン建屋で復旧作業をする妨げになっており、その面でも汚染水の量を減らすことが、収束に向けた作業を本格的に始めるための課題でした。
循環注水冷却装置は原子炉の冷却と汚染水の処理という重要な働きをします。
原発が安定した状態になるのはいつになるのか。
新工程表では対策強化によって、原子炉を100℃以下の冷温停止状態に持ち込む時期は変えず、10月から来年1月までに達成するとしています。
【冷温停止の条件】
ただし、問題は冷温停止という意味です。
本来、原子炉が停止し、100℃以下の冷温停止状態になれば、放射性物質が大量に放出される恐れはなくなります。
当然、計画的避難区域の見直しなどの動きにもつながってきます。
ところが、冷温停止というのは正常な原発に使われる定義で、事故を起こし、燃料が溶けてしまっている今回の場合、100℃以下に保たれても冷温停止とは言えない。
専門家は事故の状況に合わせた定義が必要だと指摘してきました。
この点について昨夜の発表では、冷温停止の条件が示されました。
それは、原子炉の底の温度が100℃以下になり、格納容器から放出される放射性物資を抑え、周辺での被ばく線量を大幅に減らすことができきた状態というのです。
冷温停止といっても、温度の問題だけでなく、周辺への影響も確実に抑えることが必要だというわけです。
![]()
【地下水対策】
新工程表でもうひとつ目を引くのは、地下水の遮へい壁の設置を本格的に実施する考えを示したことです。
原子炉建屋やタービン建屋には放射性物質で汚染された水が溜まっています。
また、その周辺は事故当初に起きた水素爆発によって放出された放射性物質やがれきが散乱しています。
雨が降ることなどで、これが地下水に影響を与える可能性があります。
原発の周辺の地下水は海に向かって流れています。
そこで、海への汚染につながらないように、この対策が考えられました。
地下の岩盤のところまでコンクリート壁を設置し、地下水の流れをせき止め、海に汚染された地下水が流れないようにします。
当初の計画では検討事項となっていましたが、具体的な実施前提に準備を進めることが示されました。
【破壊された建屋の修復】
もう一つ重要なのは水素爆発によって破壊された原子炉建屋などの修復です。
燃料プールや原子炉がむき出しの状態になっています。
そこで、仮の設備として、風や雨の影響などを避けるため原子炉建屋カバーの設置の準備が進められています。
鉄骨で骨組みを作り、幕で覆う設計です。
新工程表では、中期的な目標として、より堅固な設備の準備も具体的に進めることが示されました。
![]()
【原発事故の収束の位置づけ】
新しく示された工程表が、原発事故収束に向けた取り組みの中でどのような意味があるのかまとめてみます。
原発事故で最優先されるのは原子炉の冷却です。
燃料が過熱すると水素爆発や水蒸気爆発など、大量の放射性物質を放出する事態に至る可能性があります。
今回示された工程表では、冷温停止状態の意味として、原子炉が100℃以下に保たれ、周辺への影響が抑えられることとしました。
これが、最悪の事態に後戻りすることはないという条件と言えるのか。判断をする基準がもっと具体的に示される必要があります。
住民の避難を解除する条件が整うまでには、どの位の時間が必要なのか。
ステップ1という準備段階を経て、新しい工程表が示されましたが、原発事故の収束に向けた本格的な取り組みはこれからです。
(谷田部 雅嗣 解説委員)
