2008年05月15日 (木)時論公論 「イスラエル建国60年、遠のく和平」

(金子哲也 キャスター)

イスラエルは建国60年を迎え、
アメリカのブッシュ大統領も出席して、
記念行事が行われています。
中東和平の今後について、
出川解説委員がお伝えします。


(出川展恒 解説委員)

■イスラエルの建国は、
度重なる中東戦争の始まりでもありました。
そして、
パレスチナ問題が未解決のままとなっていることは、
他のさまざまな紛争、
たとえば、
イランとイスラエル・アメリカの激しい対立や
国際テロ組織が活動を拡げる原因ともなっています。
こうしたことを踏まえて、
中東和平の今後を考えたいと思います。


■はじめに、簡単に歴史を振り返りましょう。

1948年5月14日、
ヨーロッパなどで迫害されたユダヤ人が、
祖先の土地であるパレスチナで、
「イスラエル」の建国を宣言しました。

周辺のアラブ諸国は激しく反発し、
その翌日、つまり60年前のきょう、
「第1次中東戦争」が勃発します。

イスラエルは、この戦いに勝利し、
パレスチナ人およそ70万人が難民となりました。

パレスチナ人にとっては、苦難の歴史の始まりで、
彼らは5月15日を、
アラビア語で「破滅」を意味する
「ナクバ」の日と呼びます。

■その後、イスラエルとアラブの戦争が繰り返されました。

イスラエルは、アメリカの支援で、
周辺国を圧倒する強力な軍事力を備えてゆきます。

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1967年の第3次中東戦争では、
わずか6日間で、支配地域を一挙に4倍以上に拡げました。

国連では、イスラエルに対し、
占領した土地からの撤退を求める決議が採択され、
その後の中東和平は、
「領土と平和の交換」という原則のもとで進められてきましたが、
パレスチナ問題は解決されないまま、今日に至っています。

今から15年前、1993年には、
イスラエルとPLO・パレスチナ解放機構との間で
歴史的な「パレスチナ暫定自治合意」が結ばれ、
和平実現への期待が高まりました。

しかし、2000年、
当時のクリントン大統領が、
パレスチナ問題を一気に解決しようと、
首脳同士の和平交渉を仲介したものの、
聖地エルサレムの帰属をめぐって決裂し、
激しい暴力の応酬が続きました。

政治と宗教が複雑に絡み合った問題だけに、
和平が失敗すれば、
破滅的な結果を招くことを思い知らされた出来事でした。

去年11月、
アメリカのブッシュ大統領の仲介で、
7年ぶりに和平交渉が再開したものの、
その後、ほとんど進展はありません。

■和平交渉は、
パレスチナ人の独立国家を実現させ、
イスラエルと平和共存させることを最終目標としています。

現在、パレスチナ側が要求しているのは、
イスラエルが第3次中東戦争で占領した
ガザ地区、ヨルダン川西岸地区、
そして、東エルサレムを合わせたすべての領土ですが、
その実現は、ほとんど不可能な情勢です。

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イスラエルは、
東エルサレムを一方的に併合したほか、
ヨルダン川西岸と東エルサレムで、
ユダヤ人入植地の拡大を続け、
テロリストの侵入を防ぐという理由で
巨大な壁やフェンスの建設を進めているからです。

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パレスチナ人が、
独立国家の領土と見てきた土地が
入植地によって「虫食い」の状態となり、
壁やフェンスも、
占領地に大きく食い込む形で建設されています。

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この60年、
パレスチナ人は国家独立のチャンスを逃し、
土地を失い続けてきたとも言えます。

■アメリカのブッシュ大統領は、イスラエルを訪問し、
建国60年の記念式典に出席しました。

「親しき友よ。誕生日おめでとう」と述べて、
イスラエルがアメリカにとって、
特別なパートナーであることを強調しました。

また、イスラエルのオルメルト首相と会談し、
パレスチナとの和平交渉を自分の任期中に決着させることに、
改めて強い意欲を示しました。

しかし、
「国境の画定」、「聖地エルサレムの帰属」、
そして「パレスチナ難民の帰還」という中核の問題は、
ほとんど手つかずの状態で、
年内の決着を信じる専門家はいません。

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■なぜ、和平交渉は進まないのでしょうか。

まず、イスラエル人とパレスチナ人の間の
根深い相互不信があります。

2000年以降の暴力の応酬で、大勢の犠牲者が出て、
双方とも、和平推進派が力を失ってしまいました。

イスラエル側では、
占領地からの撤退に反対する右派主導の政権が続き、
ユダヤ人入植地の拡大を続けています。

一方、パレスチナ側では、
イスラエルの生存権を認めない
イスラム原理主義組織「ハマス」が、
おととしの選挙で圧勝し、
去年6月、ガザ地区を武力で制圧しました。

パレスチナは「分裂状態」に陥り、
イスラエルとの和平実現に賭ける
最高指導者アッバス議長の求心力は失われています。

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この間、イスラエルとアメリカは、ハマスを徹底的に排除し、
ガザ地区を経済封鎖して、
住民をハマスから離反させようとしましたが、
かえって逆効果となりました。

最新の世論調査では、
ハマスのハニーヤ元首相の支持率が、
アッバス議長の支持率を上回っています。


■それでは、中東和平は、
今後、どう進めてゆけば良いのでしょうか。

目の前にあるのは、「取り扱い注意」の難問ばかりです。
時間がかかることを覚悟しなければなりません。

一歩一歩、合意と信頼醸成を積み重ね、
ゴールを目指すという、
粘り強いとりくみが求められます。

「和平」への希望を持ち続けることが大切ですが、
イスラエル側とパレスチナ側では、
その目標とするものが異なります。

イスラエル人は、
和平によって、自らの安全を守りたいと考えています。
戦争やテロの恐怖から解放されたいという切実な願いです。

これに対して、パレスチナ人は、
和平によって、奪われた土地を取り戻し、
国家独立の悲願を果たしたいと願っています。

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双方が、険しい和平の道を進んでゆくためには、
暴力の連鎖を断ち切り、
入植地や壁の建設をやめさせることが重要で、
仲介役のアメリカの指導力が鍵を握ります。

■そのアメリカのカーター元大統領が、
先月、中東を訪問し、和平の仲介を試みました。

イスラエルとエジプトの和平の立役者として、
ノーベル平和賞を受賞したカーター氏ですが、
今回、シリアで、ハマスの最高幹部と会談しました。

カーター氏によりますと、
ハマス側は、
「イスラエルとの和平合意が成立し、 
 パレスチナの住民投票で承認された場合は、
 これを受け入れる」
と述べたということです。

ハマスが、条件つきながら、
イスラエルとの和平を容認する用意があることを示すものとして、
注目されます。

アメリカ、イスラエル両政府は、
カーター氏が、テロ組織に指定するハマスと
直接対話したことに不快感を示しました。

これに対し、カーター氏は、
「ハマスを排除した和平交渉がうまくゆくはずがない」
と反論しています。

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住民の選挙で選ばれた政治組織である以上、
ハマスも、和平の枠組みに取り込む必要があるという
カーター氏の主張は、
対立する相手に「テロ国家」や「テロ組織」のレッテルを貼り、
対話さえ頑なに拒んできた
ブッシュ大統領の外交姿勢を痛烈に批判したものと言えます。

■中東全体に視点を拡げてみましょう。

最近では、イスラエルとアラブ諸国との対立よりも、
イスラエルとイランの敵対関係が、より深刻な問題となっています。

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イスラエルは、核開発を進めるイランを最大の脅威ととらえ、
イランの核保有はあらゆる手段で阻止するとして、
武力行使の可能性も排除していません。

また、イスラエルは、去年9月、
シリアが北朝鮮の協力で建設していた原子炉施設を
空爆で破壊しました。

中東地域で進む「核の拡散」をめぐって、
軍事的な緊張も高まっています。

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実は、中東で最初の核保有国は、イスラエルと見られており、
イランやアラブ諸国は、これに対抗する形で、
核開発に乗り出したという側面があります。

■イランが、イスラエルを激しく敵視する背景には、
パレスチナ問題があるだけに、
その解決は、世界の安定を左右する課題です。

イスラエルに影響力を行使できるアメリカが、
どこまで、「公平な仲介者」として和平を支えてゆけるか、
次の大統領の知恵と力量が、大きな鍵を握ることになります。


投稿者:出川 展恒 | 投稿時間:23:59

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