時論公論 「八百長のてんまつ 大相撲の再生は」2011年05月06日 (金)

内山 俊哉  解説委員

大相撲の根幹を揺るがした八百長問題。日本相撲協会は、先月、25人の力士や親方が八百長に関与したとして、解雇や引退勧告などの処分を行いました。しかし、問題の長期化によって、あさって(5月8日)からの夏場所については、通常の開催を断念し、「技量審査場所」として行ないます。今夜は、八百長問題への相撲界の一連の対応を検証し、不正の根絶、大相撲再生への課題を考えます。

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<技量審査場所とは>
きょう、「技量審査場所」の初日と二日目の取組が発表されました。会期は夏場所と同じ、あさってから15日間。勝敗や優勝などの成績は、正式記録として扱われます。しかし、興行としては行われません。取組は無料公開。懸賞や、天皇賜杯を含む外部からの表彰はなし。テレビの中継放送もありません。
相撲協会としては、春場所に続く中止は避けたいところでした。しかし、大量の処分者を出し、調査も継続中という状況での通常開催には、社会の反発も予想されました。土俵に力士は戻るが、本場所が再開したわけではない。ファンにはわかりにくい、異例の場所となりました。

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<3点セットはどうなった>
本場所を再開する条件について、相撲協会の放駒理事長は、八百長の「全容解明」「処分」「再発防止策」の3点セットがそろうことを強調してきました。この3つはどうなったのでしょうか。
八百長発覚を受けて、相撲協会は外部の有識者からなる特別調査委員会を設置し、調査を依頼しました。力士の聞き取り調査、携帯電話のメールの解析などの結果、先月、25人が八百長に関与していたと認定されました。調査委員会では、携帯電話の解析は残っているものの、関与した力士らの認定は終わったという見方を示しています。
調査委員会の認定を受け、相撲協会は直ちに処分を下しました。関与を認め、具体的な供述をした3人を2年間の出場停止、残る22人を引退勧告としました。出場停止となった力士らは引退。相撲協会は、引退勧告した力士らに速やかに引退届を出すように求めましたが、3人が提出しませんでした。このため、この3人はより重い解雇となりました。
そして、再発防止策については、チェック体制の強化などが盛り込まれた具体策が、おととい(5月4日)決まり、あさってからの技量審査場所から実施されます。

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こうして、問題発覚から3ヶ月経ったところで、形の上では、「3点セット」は出揃ったように見えます。しかし、誰もが納得する決着と言えるのでしょうか。それぞれの問題点を考えます。

<課題1 全容は解明されたか>
まず、全容は解明されたのでしょうか。今回の問題は、野球賭博の捜査で警察が押収した力士らの携帯電話に、八百長をうかがわせるメールが見つかったことが発端でした。
しかし、このメール以外に新たな物的証拠はなく、調査は関与を認めた3人の供述に頼らざるを得ませんでした。このため、認定の対象は、特定の力士の取組に集中、限定的になりました。一方、力士の側からは、聞き取りに応える意思が見られなかったり、修理が難しいほど壊れた状態の携帯電話を提出されたりと、全面的な協力は得られませんでした。多くの力士の関与が認定されたとはいえ、ファンの間には「本当に膿を出し切ったのか」「氷山の一角ではないか」という疑念の声は根強く残っています。

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<課題2 処分には曲折も>
処分についてはどうでしょうか。もっとも重い除名は見送られましたが、引退勧告や2年間の出場停止も、事実上、相撲界からの追放を意味します。去年の野球賭博問題で、多くの力士が1場所の出場停止にとどまったことを考えれば、相撲協会が八百長の重大さを深刻に受け止めた現われだといえます。
ただ、先月22日、引退勧告を拒否し、解雇された元幕内の蒼国来と元十両の星風が、解雇は不当だとして力士としての地位保全などを求める仮処分を東京地方裁判所に申請しました。2人は八百長をしていないとした上で、根拠とされた力士らの供述も二転三転しているなどとし、調査の手法を厳しく批判しています。これに対し、調査委員会は、「認定は証拠に基づいて行っている」、相撲協会も、「しかるべき手続きに沿って対応する」とし、今後曲折も予想されます。

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いずれにせよ、相撲協会は、八百長の全容解明はまだ道半ばと認識すべきです。ファンの疑念の声にしっかりと向き合い、必要な調査を随時行うことを求めたいと思います。

<課題3 再発防止策の実効性>
では、八百長の再発は防げるのでしょうか。おとといまとまった再発防止策の主な中身を見てみます。
まず、チェック機能の強化として、取組の不正を監視する監察委員の親方を増員、支度部屋と土俵近くに配置します。調査によると、八百長の交渉のほとんどが支度部屋で行われていたということで、東西の支度部屋に、2人ずつ監察委員が入り、力士らの挙動をチェックします。そして、携帯電話での交渉を防ぐため、十両以上の力士やその付け人などに、携帯電話の支度部屋への持ち込みを禁止しました。

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また、抑止力強化の観点から、「懲罰規定」が改定されました。新たな規定として、八百長でなくても、敢闘精神を著しく欠くような相撲と認められた場合には、力士を厳重注意とし、同じ場所で2回注意を受けた力士には休場を勧告できることにしました。そして、八百長の処分に関して、譴責や給与減額を削除、より重い出場停止、引退勧告、解雇、除名の4種類としました。さらに、処分の対象を拡大し、八百長をした力士だけでなく、申し込んだり、約束したりした、力士や付け人なども同様としました。

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新たな防止策は、八百長を見抜けず、防げなかった反省を踏まえた内容といえます。ただ、実効性には課題もあります。これまでの対策が形骸化していたのは、当事者の言い分を鵜呑みにして、不問に付すなど、相撲界の身内に甘い体質にあると指摘されています。今後、疑わしい事例があっても、隠しかねないと、危ぶむ声もあります。厳格な運用が求められます。
また、八百長の取り締まりに終始するのではなく、なぜ起きるのかをもっと突き詰めて考えることが必要だと思います。例えば、今回、十両以上と幕下以下の力士の待遇の違いが背景として指摘され、八百長に走ってまでも地位を守りたいという動機も明らかになりました。こうした八百長をするメリットを相撲界からなくすことが、最大の再発防止策ととらえるべきです。不正行為を助長しかねない、制度や組織の問題点を洗い出し、直ちに改革に取り組むべきだと思います。

<どうなる名古屋場所>
課題は残るものの、大相撲が再生の一歩を踏み出したことは確かです。しかし、元力士らの携帯電話の解析が全て終わるには、さらに数ヶ月かかる見通しで、相撲協会では、今月19日に予定していた名古屋場所の前売りを当面延期しました。7月の名古屋場所は何とか通常どおり開催したいのが本音とはいえ、本場所再開の時期については、技量審査場所への社会の反応を見極めながら、慎重に判断する構えです。

<大相撲の存在意義は>
本場所の再開に理解を得るには、地に堕ちてしまった信頼を取り戻すしかありません。八百長問題への対応の最中、東日本大震災が発生しました。未曾有の大災害にあって、スポーツの存在意義が問われています。大相撲も例外ではありません。

VTR
先月21日、大関魁皇が被災地を慰問に訪れました。<SEご婦人「魁皇!」>津波で大きな被害を受けた岩手県大槌町の避難所で、所属する部屋の力士とちゃんこの炊き出しを行いました。<SE少女「おいしい」><SE被災者と相撲をとる魁皇>震災後、多くの力士が避難所を訪れ、被災者とふれあいました。誰のため、何のために大相撲はあるのか。今こそ、相撲界は自らに問い直さなければなりません。

<おわりに>
あさって初日を迎える技量審査場所。久しぶりに土俵に上がる力士たちには、温かい声援ばかりが送られるわけではないでしょう。八百長に関する冷めた視線も、心無い罵声も、その全てを受けとめる覚悟が必要です。「気は優しくて力持ち」相撲ファンが力士に重ね合わせてきたイメージを、八百長という不正行為によって裏切ることは決して許されません。気迫あふれる真剣勝負と、さらなる改革を誓い、大相撲再生への期待に応えて欲しいと思います。

(内山俊哉 解説委員)