時論公論 「TPP どうする農業政策」2010年11月08日 (月)

合瀬 宏毅  解説委員

政府はアジア太平洋での自由貿易圏の構築を目指す、TPP環太平洋パートナーシップ協定について、「関係国との協議を開始する」という方針をまとめ、明日閣議決定をする予定です。
TPPについては積極的に参加すべきだとする一方で、与党内にも慎重な意見が強く、国際競争力の弱い産業部門の強化が急務となっています。代表的なのが農業です。
今夜は農業の何が問題となって、どう解決を図るべきか、韓国の例も参考に、考えてみたいと思います。

TPPへの参加を巡ってなぜこれほど、農業が問題となるのか。それはこれまで、日本が進めてきたFTAと、次元が違うほど、高い自由化を、求めているからです。
TPPは当初シンガポールやニュージーランドなど4ヶ国で発足しました。小さな国同士の経済協定だったのですが、アメリカが参加を表明したことで一気に世界の関心が高まりました。その後オーストラリアなども加わって、アジア太平洋における経済統合の核となる可能性が指摘されています。

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輸出に経済を依存する日本ですから、産業界から参加への強い期待が示されたのは当然です。FTAを推進し続ける韓国との差を縮める絶好のチャンスでもあります。
問題はハードルの高さです。
TPPでは基本的に全ての品目の関税はゼロ。あらかじめ特定品目を除外した形では、交渉参加さえ認められません。

日本はこれまで、メキシコやタイなど11の国や地域との間でFTAを結んできました。しかしいずれも農業の割合が小さい国とや、農産物を除外したいわば限定的なFTAでした。
今回は例外品目は認められず、しかもメンバーの中には農業輸出大国のアメリカやオーストラリアが含まれています。
関税というハンデをもらってやってきた日本農業にとって、突然、丸裸になって競争せよ、というわけですから、とても太刀打ちできません。

政府が参加するかどうかの判断を先送りし、情報収集を進めながら対応していくとしたのは、こうした国内状況を配慮してのことです。

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では、TPPへの参加で日本農業にどの程度の影響があるのでしょうか?
現在の日本の農産物の関税は平均で12%と、高くはありません。問題は一部にきわめて高い関税が設定してあることです。

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コメの778%をはじめ、乳製品や砂糖には300%以上、小麦にも250%と高い関税をかけ、守っています。こうした農産物は国民の食料として重要であり、地域経済を支えているというのが理由です。

これが関税ゼロとなった場合、どうなるのか?
農林水産省が、民主党に示した試算によると、コメは新潟産コシヒカリなど一部のコメを除いて90%が外国産米に。
小麦、砂糖は、国内産と品質は同じか、それ以上なので、ほぼ100%が外国産に置き換わる。
さらにバターなどの乳製品も内外価格が大きいため、国産は、ほぼ全滅と試算しています。

そしてこうした結果、国内の農産物生産は、年間4兆1000億円の減少。食料自給率は現在の40%から14%にまで下落するとしています。
 
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最も、この数字、国内で何の対策も打たないことを前提に、かなり悲観的な状況を試算しています。国産にこだわる消費者も沢山いますし、世界の穀物価格が上昇している中で、相対的に競争力が付いている、国産の農産物もあります。現実が数字通りになるとは限りません。
 ただ、広大な面積でコメや麦を作るアメリカやオーストラリアにはコストではとてもかなわないのも事実です。地域経済にかなりの打撃になることは間違いありません。

では、このままの状況で農業が維持できるのかです。
日本はコメをはじめ乳製品や牛肉などを、高い関税で守ってきました。しかし農家人口は減り続け、平均年齢も66歳と高齢化しています。農村を歩くと放置されたままの耕作放棄地が年々増加し続けています。
原因の一つは、農産物価格の低迷です。そしてその背景には消費者の所得が減り続けていることがあります。
 農産物だけをいくら関税で守っても、まずは買ってくれる消費者の所得を上げないことには、お金は回ってきません。もしTPPなど各国との経済連携に踏み出さなければ、10年後には国内総生産がさらに10.5兆円減少するという経済産業省の試算もあります。

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こうした中で、経済成長と農業とをどう両立するかです。

 では日本が競争相手と考える韓国はどうしているのでしょうか。
 日本同様に農産物の競争力の弱い韓国では、1990年代、輸入自由化を見据えて、農業政策を大転換しました。
それまで零細農家中心だった農村に、食品加工などを組み込んで産業化し、縦割りだった行政を一括化。そしてコメや小麦などから、高付加価値、作物に転換して輸出を目指す「攻める農業」へと大きく舵を切りました。

 日本と大きく違うのは、かけ声だけでなく、予算も集中的に投入したことです。
1992年からの7年間に総額52兆ウオンを農業分野に投入。国家予算に占める農業投資は多い年で15%近くに及びました。

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 こうした集中的な投資で花開いたのが、ガラス温室などを使った園芸作物。象徴的なのがパプリカです。
 パプリカは輸出用作物として1995年に栽培を開始。オランダの技術を導入し、コメ農家などが、次々と栽培に参入してきました。その結果わずか10年の間に、生産量は2万トンを超えるまで成長しました。輸出先となったのは日本です。
 すでに市場を占有していたニュージーランドやオランダ産を追い抜き、一時は日本国内の7割のシェアを占めるようになりました。
 パプリカだけではありません。ミニトマトやキムチなど韓国では様々な農産物や加工品が、輸出品目として育ちました。

 一方で競争力の弱い小麦などは生産量をどんどん減らしています。1960年代には20万トン近くあった小麦生産量はほぼゼロに。食料自給率も急速に低下しています。
 その分、韓国では不足する穀物や大豆などの栽培を海外に求めていきました。ロシアやマダガスカルなどに土地を求め、国内で不足する農産物を栽培し、輸入しようという戦略です。

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 競争力の強い農産物に特化し、国民生活に必要な小麦や大豆などを全面的に海外に頼る農業政策には、危うさがあります。自由化に不安を持つ農家も少なくありません。
しかし自由化を見据え、常に先に手を打ち続ける「先対策、後開放」と呼ばれる政策で、あるべき農業の形を目指し、国民の合意形成を進めてきたのは、間違いないと思います。

翻って日本はどうでしょうか。
日本では、自由化を前提とした議論は、タブー視され、先送りされてきました。TPP参加に関する試算でも、農林水産省は被害額は出しても、被害を止めるためにいくら必要なのか、示していません。
数字を出せば、参加を認めることになるから、という理由です。これでは議論になりません。

貿易自由化を進めながら、国内の農業を守るために、先進国はどこも苦悩してきました。EUやアメリカも、農業保護には莫大な予算を掛けています。

NHKが週末に行った世論調査によると、TPPについて37%が交渉に参加すべきだとする一方で、どちらとも言えないが、46%にも上りました。
政府がやることは、まずは将来にわたってどういう農業の形を目指すのか。そのためにいくら必要なのか一刻も早く国民に示し、判断をゆだねることだと思います。