2010年08月09日 (月)時論公論 「相次ぐ児童虐待からどう救うか」

先月末、大阪・西区のマンションの一室で2人の幼いきょうだいが遺体で見つかりました。母親が育児を放棄するという児童虐待の結果でした。ことし6月までの半年間に全国の警察に摘発された児童虐待は、181件とこれまでで最も多くなり、18人の子どもが亡くなっています。今夜は、相次ぐ児童虐待から子どもたちをどうすれば救えるのか、児童相談所の対応を中心に考えます。

大阪・西区のマンションで、3歳と1歳のきょうだいの遺体が見つかったのは、先月30日のことでした。23歳の母親が、2人の遺体を放置したとして死体遺棄の疑いで逮捕されました。母親は、当初、子育てに熱心でしたが、去年、夫と離婚。今年1月からこのマンションに移り住み、子どもを誰にも預けずに風俗店で働き始めて、間もなく育児を放棄するようになったと言います。部屋から異臭がするという通報を受けて警察が中に入り、遺体を発見しました。警察によりますと、食事を与えられないまま置き去りにされ、衰弱して死亡したとみられています。

なぜ子どもたちを救えなかったのか。
部屋に残された子どもたちは、今年3月ごろから、外部にサインを送り続けていました。同じマンションの複数の住民は、夜中に毎日のように泣き叫ぶ子どもの声を聞いていました。しかし、児童虐待防止の窓口である、大阪市の児童相談所に通報したのは、一人の女性だけでした。
通報を受けた児童相談所は、マンションの部屋を5回訪問していました。
最初の訪問は、ことし3月31日、通報の翌日の午後3時ころでした。翌日、翌々日と時間を変えて3日連続で訪問しましたが、子どもがいる気配はなかったといいます。再び訪問するのは、1週間後の4月9日。前日の夜、同じ女性から再度泣き声が続いているとの知らせを受けたからです。最後の訪問は、5月18日。この日の朝5時半に、同じ女性が3度目の通報をしました。午後4時前に職員が行きましたが、やはり中に人がいる気配はなかったといいます。2人は死後1か月から2か月たっているため、この頃は生きていたとみられています。
結局3回の通報を受け、5回の訪問をしたにもかかわらず、子どもたちがいるかどうかの確認ができず、虐待に気づけませんでした。


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児童相談所は、なぜ気づけなかったのでしょうか。早めに気づいていれば、子どもたちだけでなく、一人で子育てに悩む母親の支援も可能でしたが、親子3人が住んでいることを確認する方法がなかったと説明しています。住民登録はありませんでした。部屋は、本人の契約ではなく、また貸しされていたため、管理会社も住民を把握していませんでした。近所づきあいはなく、同じマンションに住む人も誰が住んでいるか知らなかったということです。


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 通報が1人の住民以外から一切なかったことで、緊急性は低いと見ていた面もあります。
児童相談所は、異なる時間に5回の訪問をしているわけですが、いずれも日中で、住民への聞き取りなどは行われませんでした。通報は、「深夜の2時や3時に泣いている」、「母親は夜中に子どもを置いて働きに出ているのではないか」と具体的なものでしたが、この時間帯には訪問しませんでした。最後に女性が通報した際には、「今泣き声がしている」と話したにもかかわらず、職員が訪れたのは、10時間後でした。3度目の通報に、緊急度はかなり高いと判断し、すぐに駆けつけることはできなかったのでしょうか。マンションに張り込むこともできたはずです。別の児童相談所の関係者は、会えなければ部屋の前で長時間待つのは当たり前のことで、1日張り付いていれば中の様子は察知できたのではないかと指摘しています。


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そもそも児童相談所は、虐待から子どもたちを守るため、どんなことができるのでしょうか。児童相談所の業務は、社会福祉や心理学などの知識を持つ専門職員の児童福祉司が中心となって行います。まず行うのは、「家庭訪問」をして子どもに面会することです。虐待があれば、子どもを一時的に保護することもできます。子どもと一緒に指定の場所に来るよう求める「出頭要求」。さらに、「立ち入り調査」と続きます。拒否すれば罰則規定もあり、場合によっては、警察に協力を求めることもあります。それでも子どもの安全を確認できない場合には、最終的な手段として、「臨検、捜索」という制度があります。裁判所の許可を得たうえで、カギを壊してでも部屋に入る強制的な立ち入りができるようになっています。児童虐待の増加を受けて、2年前から可能になった制度です。
今回は、最初の段階、「家庭訪問」で躓いたため、そこで対応が止まっていました。


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では、どうすれば、子どもたちを虐待から救うことができたのでしょうか。
事件から、その課題を考えます。
一つは、専門職員の整備です。厚生労働省によりますと、昨年度、全国の児童相談所が対応した児童虐待の件数は、4万4210件。これに中心となって対応する児童福祉司は、全国で2400人あまりで、慢性的な人手不足が続いています。大阪市の児童相談所も24時間態勢で電話による通報は受け付けていますが、児童福祉司は緊急性に応じて呼び出すことになっていたため、対応時間にずれが生じました。余裕があれば、通報を受けてすぐに児童福祉司を派遣したり、現場に張り込んだりする時間も取れたかもしれません。厳しい財政状況は続いていますが、整備を急ぐ必要があります。
もう一つは、児童相談所が最悪の事態を想定して踏み込んだ対応を取ることです。プライバシーの問題はありますが、今回も、管理会社に強く働きかけて合鍵を借りて部屋の中を確認することはできたはずです。長時間、子どもたちだけ取り残されていることが確認できていれば、保護責任者遺棄の疑いで、警察に協力を求めることもできます。
一方で、児童福祉司が対応をしていても子どもを救えなかったケースも出ています。
去年12月に横浜市の住宅で1歳の女の子が木箱に入れられて窒息死するという事件がありました。このケースでは、児童相談所は、寄せられた情報から育児放棄の可能性があるとして、家庭訪問を繰り返し、前日には、立ち入り調査も行っていました。女の子は、体に傷跡などがなく、暴力をふるわれているわけではないとして安全確認ができたと判断していました。このケースを防ぐには、立ち入り調査をした職員が、部屋の様子など、育児の環境まで確認して木箱を見つけ出す必要がありました。今や、児童相談所には、そうした事態まで想定した対応が求められているのです。
そして、最後に指摘しておきたいのは、私たちの通報の重要性です。今回も通報者が一人しかいなかったことが、結果的に児童相談所の判断を鈍らせました。周辺の住民からの通報は、虐待発見の端緒となりますが、死亡にまで至る虐待のうち、通報があったのは、20%程度にとどまっているのが現状です。児童虐待防止法は、虐待を受けたと思われる子どもを見つけた場合の通報を義務づけています。各地の自治体や児童相談所は、受け付けの電話窓口を設けています。警察も迅速に対応するようになっています。他人の家のことと思わず、躊躇せず知らせることで子どもが救われる場合があることを知っておく必要があります。


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厚生労働省は、今月末に、全国の児童相談所の所長会議を開きます。会議には、警察庁や文部科学省の担当者も出席し、意見を交わす予定です。行政側は、今回救えなかった命をどうすれば救うことができたのかをしっかり分析し、教訓とすること、そしてそれを全国の担当者が共有することで、今も続いているかもしれない虐待から、子どもたちの命を救うことにつなげて欲しいと思います。

投稿者:西川 龍一 | 投稿時間:23:58

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