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目標下回る成長率 中国経済低迷の始まりか

神子田 章博  解説委員

中国は低成長時代をむかえたのか。去年1年間のGDP・国内総生産の伸び率は3.0%と、政府の目標を大きく下回りました。背景には、コロナの影響に加え、国内需要を支えてきたエンジンの力が弱まったことがあります。きょうは日本経済にも大きな影響を及ぼす中国経済の低迷の背景と今後の見通しについて考えていきたいと思います。

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解説のポイントは三つです。
1)低成長続いた一年
2)不動産市場は縮小均衡にむかうか
3)IT産業成長にくすぶる懸念

1)低成長続いた一年

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まず、きのう発表された去年のGDPの数字からみていきます。中国の去年1年間のGDPはおととしに比べてプラス3.0%と、中国政府が目標に掲げていた5.5%を大幅に下回りました。四半期ごとにみると、1月から3月こそ4.8%と5%近い成長を維持したものの、上海を中心に厳しい外出制限がとられ物流が止まった4月から6月にかけては0.4%。7月から9月は、共産党の重要なイベントである党大会にむけて公共投資を増やすなどのテコ入れをしたにもかかわらず、3.9%にとどまりました。この数字が当局の期待外れだったことは、共産党大会中に予定されていたGDPの発表が、突然党大会終了後に延期されたことからもうかがえます。そして10月から12月は、「ゼロコロナ政策」を緩和したことで感染が一気に広がり生産活動が鈍ったことなどから前年比は2.9%に低下。しかも7月から9月と比べた前期比はゼロ成長にとどまりました。

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今年の成長率の見通しをめぐっては、コロナが収束した場合にはいわゆるリベンジ消費が期待されること。公共投資や電気自動車などの車両購入税の減免など景気下支え策が続くとみられること。またコロナ禍で相次いだ工場閉鎖や物流の混乱が、ゼロコロナ政策の撤廃で大幅に減る見通しであることなどから、成長率は5%を超えるという予測もあります。ただこれは去年の水準が低かった反動で、伸び率としては高くなる要因も大きいとみられ、来年以降は、コロナの影響がなくなったとしても5%程度の成長はできず、低い成長が続くという見方も出ています。

2)不動産市場は縮小均衡にむかうか

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そうした見方がでる背景には、中国経済の成長をけん引してきたエンジンの力が弱まっていることがあります。その一つが不動産市場の低迷です。
中国では都市部の土地は国有で不動産業者は地方政府が整備した用地を、使用権料を払って利用し、マンションを建てて販売。さらに、地方政府は業者から得た使用権料を財源に、新たな用地を開発。そこに不動産業者が新たなマンションを建設する動きが繰り返されてきました。不動産価格が上がっている間は、業者も地方財政も潤うという好循環が続きそれが中国経済を強力に引っ張ってきました。ところが、不動産価格が高騰したことで、庶民からは「高くて手が届かない」という批判が出て、中国政府が投機的な取引を規制。不動産業者に対しても開発資金の借り入れを抑制する規制を導入した結果、今度は不動産価格が下落して、低成長の要因となっているのです。中国政府は、住宅ローンの基準となる金利を引き下げたり、不動産業者に対する規制を一部緩和して、住宅市場を支える方針を打ち出していますが、中国経済を押し上げる成長のエンジンとしてはもはや期待できないという見方が強まっています。背景にあるのが、人口減少という構造要因です。

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中国では去年末の時点での人口が14億1175万人と前の年より85万人減り、61年ぶりの減少となりました。人口の増加が経済を押し上げるメリットが失われる可能性があることに加え、とりわけ住宅の主な購買層であるといわれる30歳から34歳の世代については、去年のおよそ1億1800万から2030年には8100万程度へと、急激な減少が予想されています。こうした需要の落ち込みに対して供給が変わらなければ、価格が一気に落ち込んで、不動産会社の経営が悪化して銀行からの融資が返済できなくなる=債務不履行を起こす。すると銀行の経営も悪化して、金融システムにも連鎖的に悪影響が及ぶなど、日本のバブル崩壊の時のような現象が起きかねません。

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こうした中で中国政府は、どう対応しようとしているのでしょうか。大和総研のまとめによりますと、中国で不動産市場の低迷をきっかけに業績が悪化し債務不履行に陥った不動産会社は、今月11日時点で、株式を上場している55社のうち、29社にのぼりましたが、そのうち27社が民間企業でした。これについて大和総研の齋藤尚登主席研究員は、「国有企業のデベロッパーについては、地方政府や銀行などが何らかの形で支援している可能性が高い」として、不動産の供給量を政府がコントロールしやすいように、民間の不動産会社を意図的に淘汰しようとしているのではないかという見方を示しています。中国政府は、中長期的には、需要減少に対して供給を抑える=いわば縮小均衡によって対応しようとしており、これまでのような不動産に依存した経済発展は終焉を迎えるとみられているのです。中国での不動産市場の低迷は、住宅の新築にともなって需要が生じる家電製品や、開発に必要な建設機械など、日本からの輸出の減少につながるおそれがあります。

3)IT産業成長にくすぶる不安
さらに2010年代に中国経済をけん引してきたデジタル分野でも、成長が足踏みしているように見える気になるデータがあります。

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中国で、去年1月から6月までの半年間に、ネットショッピングや、ネットを通じた音楽配信を利用した人の数は、その前の半年間に比べて減少に転じました。
またネットによるビデオコンテンツの視聴や、オンライン決済の利用者の伸びも鈍化し、ネットを利用したビジネスの市場が飽和状態に近づいていることをうかがわせています。IT産業が成長の原動力としてあり続けるには、新たな技術革新やサービスの開発が求められているという指摘もあります。

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その一方で、中国では共産党が経済活動へのコントロールを強める姿勢が、IT産業の発展にマイナスの影響を及ぼすという指摘も出ています。2020年の秋、ネット通販最大手・アリババグループの創業者ジャック・マー氏が、AIをつかった最先端のネット金融事業を展開していく際に、政府の規制について公然と批判したところ、その事業を担う傘下の企業の株式上場が延期に追い込まれるという出来事がありました。その後今年になってこの企業がマー氏の経営への影響力を弱める措置をとったと発表しましたが、その同じ日に、金融監督当局のトップが「ネット金融をめぐる整理改革は基本的に完了した」と述べたことから、政府に批判的だったマー氏の影響力をそぐために当局の関与があったのではという憶測も呼んでいます。三期目を迎えた習近平指導部はIT産業の成長を中国経済のけん引力にしていきたい考えを示していますが、「当局のさじ加減で、民間企業の経営戦略が左右されてしまう。」という受け止めが企業経営者のマインドを委縮させ、イノベーションが起きにくくなるのではないか。共産党が統制色を一段と強める中で、自由な発想に基づく革新的なサービスが生まれにくくなっているのではないかという懸念がくすぶり続けているのです。さらに、そうした不透明な体質を嫌って、日本をはじめ自由な経済活動を重んじる企業が、中国ではなくほかの国への投資を増やすという動きも出始めています。
欧米各国や日本との緊張関係が続き、輸出や外資の導入などをめぐる逆風がやまない中、国内での成長の基盤を築くための道筋を見いだせていないかに見える中国。これからも低迷が続くのか。重大な岐路にたっているようです。


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神子田 章博  解説委員

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