令和5年、2023年の日本の政治は、防衛力の強化やエネルギー、子ども政策など将来の日本の姿をどう描き、それに道筋をつけられるのかが問われることになりそうです。4年に一度の統一地方選挙も行われる政治の課題を考えます。
【政治日程は前半に集中】
岸田総理大臣は、4日、年頭の記者会見で、「覚悟を持って、先送りできない問題への挑戦を続ける」と述べました。
ことしは、年の前半に重要な政治日程が集中しているのが大きな特徴です。一般会計の総額で過去最大の114兆円あまりの新年度予算案などを審議する通常国会を政府は今月23日に召集する方針です。新年度を迎える4月には、子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」が発足。黒田日銀総裁が任期を迎え、4年に一度の統一地方選挙が行われます。一方、外交面では、5月にG7広島サミットが開催されます。
重要日程の課題をそれぞれみていきます。
【通常国会・防衛費と財源】
まずは通常国会。大きな焦点となるのが防衛力の抜本的な強化で、その柱は、敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有です。
政府が、これまで政策判断として保有しないとしてきた方針をなぜ転換するのか。政府は、「抑止力」を高めるためと説明しますが、「専守防衛」を逸脱することにはならないか。また、日本とアメリカの、いわゆる「盾と矛」の役割分担は変わらないのか。相手の攻撃が発生したことをどう確認し、国際法上認められない「先制攻撃」にならないことを、いかに担保するのか。論点は多岐にわたります。
一方、防衛費について、政府は、2027年度までの5年間の総額を43兆円程度とし、2027年度には防衛関連予算を今のGDP・国内総生産の2%に相当する水準にするとしています。その財源のうち1兆円あまりは、2024年以降の適切な時期に、法人税と所得税、たばこ税で賄うとしています。自民党内の反発もあり、実施時期の決定は先送りされ、野党側からは、「国会が閉会してから重要なこと勝手に進めている」などという反発が一斉に出ています。
これまで安全保障の問題では、「相手に手の内を明かすことはできない」などとして、議論が理念的・抽象的なものになりがちでした。しかし、今回は、国の方針に加えて、装備や予算の規模が明確になっているだけに、国会では、これまでとは違ったより具体的な議論が求められると思います。
【通常国会・原発、エネルギー政策】
政府が、脱炭素社会の実現に向けて原子力を最大限に活用するとしていることも大きな論点です。政府は、原発の再稼働に加えて、最長60年と定められている運転期間の延長を可能にすることや、これまで想定していないとしてきた廃炉を前提にした新型炉への建て替えを打ち出しました。原発の運転期間の上限は、福島の原発事故の反省から設けられたもので、これが将来的には原発がゼロになるという論拠にもなってきました。再生可能エネルギーをどこまで、どうやって増やしていくのか。また、原発をどう位置付けて、安全性とコストの面からそれは実現可能なのか。エネルギーの安定供給という観点も含め、国会で十分な議論が必要ですし、政府は、国民の意見を幅広く聞く努力が求められるのではないでしょうか。
【子ども政策】
さらに、通常国会で充実した議論に期待したいのが4月に「こども家庭庁」も発足する子ども政策です。岸田総理大臣は、会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と述べ、将来的な子ども予算の倍増に向けた大枠を、6月の骨太の方針までに提示する考えを示しました。今後の政策の中心が子ども政策になるというのは、各党共通の認識といえます。ただ、子ども・若者・子育て家庭など対策の対象と中身をどこまで拡大できるのか、児童手当をはじめとする経済的な支援や子育て家庭へのサービス、さらには育児休業制度を含めた働き方改革などについて、様々な要望や提言が出されています。それぞれの対策がどのように連携すれば効果があがるのか、全体像が見えにくくなっているようにも感じます。また、子ども政策をめぐっては、これまで高齢者と現役世代のバランスが議論になってきました。さらに拡充するならば、子どものいない人が増えている中で、新たな負担をどこに求め、どう理解を得ていくのか、議論を加速する必要があります。
【外交】
さて、外交面に目を向けると、岸田総理大臣は、G7の議長国として、ウクライナ情勢や台頭する中国への対応などでリーダシップを発揮したい考えで、早速、来週から欧米各国を訪問します。また、国連安全保障理事会の非常任理事国として、欧米とロシア・中国との間で、中立的な立場を取る国々との関係を深めることも課題です。
そして、5月の広島サミットでは、唯一の戦争被爆国の総理大臣として、強い思い入れがある「核兵器のない世界」の実現に向けた力強いメッセージを発信し、国際社会の理解と共感を得らえるのかも、ことしの焦点です。
さらに、中国や韓国との関係改善が本格化するかどうか。弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に、拉致問題の解決も目指してどう向き合っていくか。防衛力の強化の一方で、紛争を防ぎ、緊張を和らげる努力と外交手腕も問われることになります。
【統一地方選と政局】
岸田総理大臣としては、外交で実績をあげたいところでしょうが、内政が安定しなければ外交にも影響が出かねません。その意味でも、焦点となるのが、4月の統一地方選挙です。
統一地方選挙は、前半が4月9日、後半が23日に行われます。地方自治体の長と議員の選挙ですから、それぞれの地域の抱える課題が大きな争点になりますが、各党にとっては、地方の基盤を固める重要な選挙です。
一方、早ければ後半に合わせて衆議院の補欠選挙も行われる見通しです。
岸田政権は、去年、2か月で4人の閣僚が交代する異例の事態となり、内閣支持率も低迷しています。ただ、自民党内から「岸田降ろし」の動きは、表面化していません。これは、自民党内で最大派閥を率いた安倍元総理の後継が決まらず、「ポスト岸田」と目される政治家が党や閣内で政権を支える立場にあることなどから絞り込まれていない状況にあること。一方で、野党側は、政党支持率では自民党に大きく水をあけられ、先の臨時国会で立憲民主党と日本維新の会の連携が一定の成果をあげたものの、安全保障やエネルギー、憲法などの課題では政策の違いもあり、野党が直ちにまとまって政権を脅かす状況にないという微妙な背景があると見られます。
ただ、野党側は、通常国会で、旧統一教会や政治とカネをめぐる問題を追及するとともに岸田総理の任命責任を問う構えです。政権の側で、新たな問題が明らかになったり、重要政策で国会審議が立ち往生したりする事態になれば、統一地方選挙にも影響を与えます。与党が勢力を大きく減らし、強い批判が出れば、岸田総理が、局面を打開するため、思い切った人事の刷新や野党側に今より踏み込んだ協力を求めるのではないかという指摘や、年内の衆議院の解散・総選挙が現実味を帯びてくるという見方も一部にあり、政局が一気に流動化する可能性があります
一方で、岸田総理が、通常国会と統一地方選挙を乗り切り、G7広島サミットで成果をあげ、支持率が回復すれば、政局の主導権を握り、来年の自民党総裁としての任期満了や2年後の衆参両院議員の任期満了を見据えて、政権運営の戦略を練っていくことになります。
【まとめ】
このように、ことしの日本の政治は、通常国会冒頭からの論戦と統一地方選挙の結果が岸田総理大臣の解散・総選挙の時期の判断など、その後の政局に影響を与えるものと見られます。国会では、統一地方選挙を意識して、各党が存在感をアピールしたいところでしょうが、論点となるのは、安全保障やエネルギー、子ども政策など日本の将来を考える上で、重要なものばかりです。与野党双方には、国民のために、国民が納得できる論戦を展開できるのかが、ことしの課題だと指摘しておきたいと考えます。
この委員の記事一覧はこちら